本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

時代・歴史小説

ちょちょら/畠中恵

多々良木藩の新任江戸留守居役、間野新之助が悪戦苦闘する時代小説である。新之助の兄は有能で剣の腕も立つ有望な江戸留守居役だったが、任務に失敗、腹を切って果て、その後を新之助が引き継ぐことになる。江戸留守居役とは、江戸において幕府との折衝をす…

ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石/伊集院静 

文庫化にて再掲(使い回しとも言う(笑))。 副題にある通り、子規と漱石の交友を中心に、子規の青春から死までを描いた評伝小説である。ノボさんとは、子規の本名正岡升(のぼる)から取られた子規の愛称で、年上に一目置かれ、年下から慕われる、気持ちの…

三成の不思議なる条々/岩井三四二 

関ヶ原の戦いから30年ほど経った頃、日本橋あたりの文筆業者の文殊屋(今で言えばフリーライターならんか(笑))が、関ヶ原の石田三成について調べよと理由を隠したまま依頼され、東軍西軍両方の関係者にインタビューを試みたという体裁の時代小説。雑兵と…

でんでら国/平谷美樹

高齢化と介護の問題をモチーフにした時代小説である。出版広告を見た時、ユートピアを守る者と攻める者という筋立てに「吉里吉里人/井上ひさし」と重なるものを感じて興味を持ったが、やはりヒントになっているだろうという印象。津軽と南部に挟まれた小藩…

トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ/池上永一

文庫化にて再掲。 大作「テンペスト」のスピンオフ「トロイメライ」http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20111123/p1の第二弾。江戸時代の那覇を舞台に庶民の哀歓を情緒たっぷりに描いた時代小説である。狂言回しになるのは筑佐事(岡っ引き)の武太だ…

島津戦記/新城カズマ 

本能寺の変より三十年ほど前、三州平定を目指す島津家の四兄弟(義久、義弘、歳久、家久)の成長を描きつつ伝奇的要素を盛り込み、非常に気宇壮大な歴史フィクションではある。思慮深い大人物の義久、勇猛果敢な義弘、典籍に通じる思索的な歳久は同じ母を持…

みちのく忠臣蔵/梶よう子

主人公神木光一郎は大身旗本の嫡男であり、父親は小普請入り*1していて猟官に明け暮れているが、本人はいたってのほほんと気軽な身分を楽しんでいる。直参旗本は江戸から離れることを禁じられているので書物で遠い土地に思いを馳せ、府内の散策を趣味とし、…

一朝の夢/梶よう子

安政の大獄の前後を舞台にした園芸時代小説。奉行所同心(ただし姓名役という地味な事務部門)の中根興三郎は、朝顔栽培に熱意を傾ける学者肌の静かな若者で、変化朝顔の栽培にかけてはそれなりの腕を持っているが、品評会への出品をしたりはしない、控えめ…

はなとゆめ/冲方丁 

「天地明察」「光圀伝」と、江戸歴史小説で己の節を枉げぬ好漢を描いてきた冲方丁の平安歴史小説は、清少納言を主人公に据え、一条帝の妃である中宮定子の「華」を描いている。歌人としては定評のある中級公家の娘で、薹の立ち始めたバツイチである清少納言…

ゆんでめて/畠中恵

「病弱若旦那一太郎と愉快な妖たち」が活躍するしゃばけシリーズは、面白くはあるものの毎度毎度同じような物語の繰り返しでいい加減飽きが来ており、この数年は新作に手が伸びなかったが、図書館の棚にあったので手にとって見たらきちんと面白かった(笑)。…

とっぴんぱらりの風太郎/万城目学

二流の忍者風太郎(ぷうたろう)は、相棒の黒弓にラッキョウを買ってくるよう申し付けたのに、黒弓がニンニクを買ってきてしまったことからケチが付き、御殿の不興を買い、忍者屋敷を放逐されて京の山里で暮らすことに。忍びの出であるひょうたん屋と縁がつ…

裏太平記/半村良

南北朝争乱の裏に吉田兼好がおり、闇の組織と共に鎌倉幕府倒幕に関わっていたとする「歴史破壊小説」である。吉田兼好が太平記の時代の人とは知らなんだ。神祇職の家に生まれた卜部兼好(うらべのかねよし)は、17歳にして堀川家に出仕し、家司見習いとな…

草原の風(上・中・下)/宮城谷昌光

元々は宰相であった王莽が漢の王位を簒奪し、新という王朝を樹立した時代、劉姓を持つ漢王朝の子孫たちは各地で苦汁をなめていたが、あまりに愚かな政治にあちこちで反逆の火の手が上がり始める。本作の主人公劉秀は、叔父に養育される傍ら実家の農作を手伝…

永遠の曠野 芙蓉千里3/須賀しのぶ

革命軍、白軍、胡子(馬賊)、コサックなど、様々な武装勢力が複雑怪奇な争いを繰り広げる戦前のソ満国境を舞台に、舞踊の名手であった芸者芙美の波乱の青春を描いたガールズ大河小説最終巻。危ういところを山村健一郎に助けられた芙美は、山村こと楊健明の…

家康、死す(上・下)/宮本昌孝 

時代は未だ家康が今川の軛から解放されたばかりの頃、弟の見舞いに出かけた家康を銃弾が襲い殺されてしまう。重臣達の協議の結果、容貌・声音がうり二つの弟を身代わりに立て、嫡男信康が成長するまでこれを家康として支えることにするが、暗殺された家康と…

光圀伝/冲方丁

水戸黄門として知られる水戸徳川家二代目光國の生涯をつぶさに描いた評伝小説である。かつて国民的人気を誇った時代劇の好々爺とは異なり、何とも血気盛んで猛々しい光圀像が描かれて新鮮(著者の「天地明察」に登場する光圀を想起されたい)。冒頭、光圀が…

幻海/伊東潤

禁教令を発布した秀吉に直談判すべく来日したレンヴァルト・シサット司祭が幻の黄金国を目指すという時代海洋伝奇冒険小説。書評サイトで「白石一郎的な本格海洋時代小説」とあり、「海狼伝」「海王伝」「戦鬼たちの海」など迫力ある船戦の場面と緻密な人間…

裏閻魔2/中村ふみ

幕末の動乱で死にかけたところを、鬼込め(体内に鬼を呼び込むとこで願いが叶えられる)という禁忌の彫り物によって不老不死を獲得してしまった宝生閻魔の苦悩に満ちた長い生を描くダークファンタジー裏閻魔の第二弾。時代はすでに終戦後である。かつては妹…

道誉と正成/安部龍太郎 

南北朝動乱の時代を舞台に、佐々木道誉と楠木正成の、道の分かれた二人の武将を描いた描いた歴史小説。婆娑羅大名(華美であったり奇矯であったりする衣装や振る舞いを好む)として知られる佐々木道誉は近江源氏の流れを汲む名門武家であるが、近畿の輸送の…

こころげそう/畠中恵 

しゃばけシリーズで人気の著者による時代小説で、「男女九人お江戸の恋物語」と副題がある。タイトルは、心化粧=「口には言わないが、内心恋いこがれること」という意味だそう。主人公の宇多は岡っ引き長次親分のもとで下っ引きを勤める若者で、ひとが良く…

トロイメライ/池上永一

大作「テンペスト」のスピンオフらしい。幕末頃の琉球王国を舞台にした琉球時代小説である。短気で反抗的で無分別で、ただ正義感だけは強く、唄と三線の名手である武太(むた)を狂言回しとして、美しい国際都市である那覇にて起きる様々な出来事を、時には…

こいしり/畠中恵

古町名主の跡取りでお気楽な道楽者の麻之助が町内のトラブルを解決してみせる「まんまこと」続編。旧友で堅物の同心見習い吉五郎の紹介で気だての良い嫁を娶った麻之助だが、昔に憧れた幼なじみお由布(やはり旧友の清十郎の義母となっている)への思慕も断…

新徴組/佐藤賢一

新徴組とは、徳川家茂上洛に際して警護のために集められた浪士組の後身で、新選組と同じ祖を持つ。新選組が会津預かりで京の警護に当たったのは有名だが、同様に庄内藩預かりで幕末の江戸の治安維持を担当したなどということはまったく知らなかった。新徴組…

天空の陣風(はやて)/宮本昌孝

超絶的に武芸に秀でた快男児が陣借り(傭兵)として活躍する「陣借り平助」の続編。ずいぶん前に読んだ本なので詳細は忘れているが、平助は混血児のみなしごで、堺の商人のもとで育てられていたような気がする。 以下、「陣借り平助」出版PRより。 「魔羅賀…

上杉かぶき衆/火坂雅志

義を重んじ、篤実な家風の上杉家にあって、非主流派とも言うべき生き方を選んだ者たちを描く短編集である。取り上げられているのは、傾奇者で有名な前田慶次郎、直江兼続の実弟で上杉家が関ヶ原後に家康に恭順した後も豊臣家への忠義を貫き通した大国実頼、…

山彦ハヤテ/米村圭伍

陸奥国折傘藩五万石の藩主・三代川伊代守正春(二十歳)はなりたてホヤホヤの殿様である。ややのんきで頼りなくも篤実で優しい人柄だが、妾腹の弟・光延を立てて実権を握ろうとする中老一派の暗殺計画に巻き込まれ、命からがら山中をさまよう羽目に。そして…

浮世袋 国芳一門浮世絵草紙4/河治和香

「侠風むすめ」「あだ惚れ」「鬼振袖」に続く、奇想の絵師・歌川国芳の娘でやはり絵師の登鯉(とり)の青春の苦悩を江戸情緒たっぷりに描いた国芳一門浮世絵草紙シリーズの四作目。まだ二十歳を過ぎたくらいの年齢だろうが、江戸時代ではすでに年増であり、…

三悪人/田牧大和

講談社文庫新刊にて再掲。 三悪人とは、主人公の遠山金四郎、鳥居耀蔵、少壮の寺社奉行水野左近衛将監忠邦のことで、この三人の騙し合い化かし合いが展開されるスリリングな時代小説。水野と鳥居といえば、厳しい引き締めを行った老中と、老中の政策の為に監…

青き狼の血脈/小前亮 

チンギス・カンの孫であるバトゥを主人公とした中国史小説。バトゥの父ジュチは、チンギス・カンの長子ながら、チンギス・カンの正妻が他部族に拉致されていた前後に生まれているため、チンギス・カンが自分の子であると認めているにも関わらずジュチ(客人…

王道の樹/小前亮

三国志の後、司馬懿の建てた晋の弱体化し始めた五胡十六国時代、てい(低からにんべんを除いた字)族の秦の皇族苻堅は戦乱で犠牲になる民の不幸を嘆き、中華のすべての民が平和で豊かに暮らせる国作りを志す。そして、劣悪な皇帝を倒して自分が即位すると、…