本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

三成の不思議なる条々/岩井三四二 

関ヶ原の戦いから30年ほど経った頃、日本橋あたりの文筆業者の文殊屋(今で言えばフリーライターならんか(笑))が、関ヶ原石田三成について調べよと理由を隠したまま依頼され、東軍西軍両方の関係者にインタビューを試みたという体裁の時代小説。雑兵とか、武将の家来の家来など、概ねさほど重要ではない人物たちの視点で関ヶ原が語られ、そして意外な三成像が浮かび上がってくる。

石田三成と言えば、能吏で才覚があり、権力を笠に着て傲慢に振る舞う小才子という通俗イメージだが、本書の中で徐々に浮かび上がってくる三成像は、算勘に秀で、一を聞いて十を知るような頭脳を持ち、曲がったことや筋の通らないことが嫌いで、空気を読めないので思ったままを口に出して反感を買うという、誠実だが融通の利かない奴である。だから豊臣家を蔑ろにした家康を許せず、糾弾し、関ヶ原へ、という流れである訳だ。

文殊屋に取材を依頼した理由が最後に明かされて、そうだったのか、ほうほうと、ちょっとばかりほっとさせる終わり方も心憎い。