大作「テンペスト」のスピンオフらしい。幕末頃の琉球王国を舞台にした琉球時代小説である。短気で反抗的で無分別で、ただ正義感だけは強く、唄と三線の名手である武太(むた)を狂言回しとして、美しい国際都市である那覇にて起きる様々な出来事を、時にはコミカルに、またノスタルジックだったりペーソスたっぷりだったりに描いている。
武太はコネで大与座(おおくみざ)の筑佐事(ちくさじ)に推挙してもらっている見習い。筑佐事とは江戸の岡っ引きのようなものであり、十手に当たる釵(さい)という武器を与えられている役職だ。そして、ジュリと呼ばれる娼妓の殺人事件やらにずっこけまくりで携わることになる。
武太を推挙したのは般若寺の大貫長老だが、元は寺社座奉行(江戸幕府の寺社奉行か)というエリート役人で、借金の肩代わりをしてやったり、庶民のためなら多少の悪事には目をつぶったりという、人情家かつ俗悪な僧侶である。武太が反抗すると大煙管で折檻するのだが、この二人のやりとりがなんとも笑える。武太が築佐事として成長するにつれ、このシーンの見られなくなるのが残念だ(笑)。
これらのけたたたましい人々が那覇の哀歓を綴っていくのだが、幸薄い人生ながらみんなに慕われ、幸福な葬儀を出してもらった老女の逸話が胸にせまる。痛快かつ切ない連作集である。