本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

上杉かぶき衆/火坂雅志

義を重んじ、篤実な家風の上杉家にあって、非主流派とも言うべき生き方を選んだ者たちを描く短編集である。

取り上げられているのは、傾奇者で有名な前田慶次郎直江兼続実弟で上杉家が関ヶ原後に家康に恭順した後も豊臣家への忠義を貫き通した大国実頼、かつての仇敵上杉家へ嫁がされた信玄の娘甲斐御寮人、北条家から謙信の養子になり、後継争いで景勝に敗れた景虎(実家では重きを置かれず、謙信に可愛がられたくだりが切ない)、家康の謀臣本多正信の次男で、直江兼続の婿になった本多政重など、確かに上杉家の主流とは相容れないが、「かぶき」と賞するのはどうだろうか。

前田慶次郎と言えば「一夢庵風流記/輶慶一郎」で描かれた気随気ままの快男児が一番かっこよい。しかしながら「大ふへん者」という作品では、上杉家にあって老人となっている慶次郎が無理をして若ぶっている場面において「漢(おとこ)というものは、痩せ我慢してこそ漢なのです」と慶次郎に心酔する上杉家臣が述べていたりするが、一夢庵の「傾き(かぶき)」は、己の中から自然(じねん)にわき出たものであり、痩せ我慢などというかっこ悪さとは無縁のような気がする。この、「大ふへん者」の中で描かれる慶次郎もそれなりに痛快ではあるのだが・・・。

著者は後書きで「慶次郎をはじめとするかぶき者は、空気は読めてもそれに迎合しなかった人間たちだと私は思う。他人と異なる価値観を持ち、頑固なまでにそれををつらぬいた。むろん、世の中と相容れず、孤独のうちに非業の死を遂げた者もあるが、彼らは彼らなりに筋の通った生き方をした。」と述べている。他人と異なる価値観を持ち、という部分は分かる。が、かぶき者には無理に筋を通すような生き方は似合わないと思うのだ。でもまぁ、面白かった。