本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

幻海/伊東潤

禁教令を発布した秀吉に直談判すべく来日したレンヴァルト・シサット司祭が幻の黄金国を目指すという時代海洋伝奇冒険小説。書評サイトで「白石一郎的な本格海洋時代小説」とあり、「海狼伝」「海王伝」「戦鬼たちの海」など迫力ある船戦の場面と緻密な人間描写がとても面白かった白石作品的なら、ということで読んでみた。

冒頭、シサットは日本見聞記「日本諸島実記」をヴァティカンにとがめられ、異端審問にかけられている。シサットに同情する若い書記官がシサットの部屋を訪れた際に語られた未曾有の体験とは・・・、というのが本書の肝である。

秀吉にまみえることの出来たシサットは、北条征伐に同行し、海戦のアドバイスをするよう求められる。戦に協力することには二の足を踏むものの、布教の許しを得たいがために肯んじたシサットは幻の国への冒険というとんでもない経験をすることに・・・。

秀吉の軍監として同行する岩見重太郎は、狒々退治の彫り物でしか名前を知らなかったが、薄田 兼相(すすきだ かねすけ)と同一人物であるらしい。元々は信長に仕えており、秀吉ずれに使われることに鬱屈を感じている、伝法で侠気のある快男児に描かれている。シサットとの間に結ばれる友情も心地よい。

伝奇的な興味もそそられる本作だが、ネタの濃密度はさほど濃くはない。人間の綾の描き方も通俗的だが、だからこそ娯楽に徹した面白さもある。書評サイトで見ぬ限り知ることはなかったが、「のぼうの城」や「天地明察」がベストセラーになるのに、このようなに埋もれた傑作もあるのだなぁと思う(因みに著者は最近、別の作品で直木賞候補になっている)。