本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ/池上永一

文庫化にて再掲。


大作「テンペスト」のスピンオフ「トロイメライhttp://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20111123/p1の第二弾。江戸時代の那覇を舞台に庶民の哀歓を情緒たっぷりに描いた時代小説である。狂言回しになるのは筑佐事(岡っ引き)の武太だが、謎解きばかりという訳ではない。直情径行で軽薄で情にもろい(言わばおっちょこちょい)の武太はこの手の主人公にぴったりだが、情に流されて法を枉げてしまうこともある。筑佐事としてはなかなか一人前になれないが、武太の活躍が痛快だ。

武太を大与座(おおくみざ・奉行所のような組織?)に推し込んだのは涅槃院の大貫長老で、世間の裏にも通じる怪僧だが、以前は武太を「お前が憎い!お前が憎い!」と大煙管で叩きのめしていたのにこのところは武太が成長してこの場面がないなぁと思っていたら、久しぶりに煙管が炸裂した(笑)。

連作で数編が収められているが、母と三姉妹が経営する料理屋から幽霊が豪華な仕出し料理を盗んでいく一篇が哀切。