本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

こころげそう/畠中恵 

しゃばけシリーズで人気の著者による時代小説で、「男女九人お江戸の恋物語」と副題がある。タイトルは、心化粧=「口には言わないが、内心恋いこがれること」という意味だそう。

主人公の宇多は岡っ引き長次親分のもとで下っ引きを勤める若者で、ひとが良くて正義感は強いもののやや頼りなく、しゃばけの若旦那同様、いかにも畠中恵が書きそうな人物である。宇多には、重松、弥太、千之助、於ふじ、お絹、お品、おまつ、お染という仲の良い幼なじみがいたが、千之助・於ふじの兄妹は相次いで掘り割りで溺死し、その真相は謎のまま。於ふじに惚れていた宇多は失意の日々を送っているし、幼なじみの中には相思相愛もいれば片想いもいて、大人になりかけの日々はなかなか複雑だ(集団交際な点が副題通りにトレンディドラマ風(笑))。

千之助・於ふじ兄妹の父親由理兵衛は大店の主だったが、いちどきに子供達を失った衝撃から立ち直れず、自分の所有する長屋で逼塞している。ある日宇多が訪ねてみると、しかしわりあい元気そうな由理兵衛で、いぶかしく思っていたら、於ふじが幽霊となって父親の元を訪ねていたのだ。

於ふじの死の真相が気になる宇多が尋ねてみても、自分のことは思い出せず、それでも成長した仲間たちのことが心配で、謎を探るために易者をやってみるとなど、なかなかお侠な幽霊である(笑)。

連作長編の形を執り、幼なじみ達の確執や事件の真相などが徐々につまびらかにされていく。やはり変死して幽霊となったお品が事件の核心に迫っていく最終篇などかなりの怖さがあり、江戸+怪異+人情+事件解決という点で、これは宮部みゆき路線だなぁと思わせた(宮部ほど社会性を主題に据えているわけではないが、それはそれで作風だ)。

しゃばけシリーズにマンネリ感の漂う昨今、作者自身もそういう思いで作風の変化を考えているのだろうかと思ったりする。この路線も推し進めてほしいと思うけどな。