本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

草原の風(上・中・下)/宮城谷昌光

元々は宰相であった王莽が漢の王位を簒奪し、新という王朝を樹立した時代、劉姓を持つ漢王朝の子孫たちは各地で苦汁をなめていたが、あまりに愚かな政治にあちこちで反逆の火の手が上がり始める。

本作の主人公劉秀は、叔父に養育される傍ら実家の農作を手伝い、土と会話しながら堅実に作物を育てる実直な青年だが、実家の兄の挙兵に加担し、王莽を倒すべく、時には命の危機にさらされながら各地を転戦するのだった。

苦難の途上で頼りになる仲間(或いは手下)と巡りあい、彼らを従えて大業をなすといういつもの宮城谷作品のパターンである。ロールプレイングゲームドラゴンボールかといった感じで、言わば大人のファンタジーであろう。出会った人々の性格を「誠実」だの「知略がある」だの「思いやりがある」だの、いちいち小難しい漢語を使いながら評価するのも鼻につくといえばそうなのだが、実はそのあたりが宮城谷作品の魅力でもあるから困ったものだ(笑)。だからこそ人物評価が大事なビジネスマンに人気があるのかもしれない。

劉秀(後の光武帝)はスーパーヒーロー的なキャラクターではなく、篤実で嘘を言わない人である。戦いの後にも略奪や暴力を禁じており、それが民の信頼を獲得していくのだが、読んでいてやはり清々しい。タイトルは、草たる民の高さで世の中を見なければならないということである。あぁやっぱり面白かったから宮城谷作品はやめられない(笑)。