本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

道誉と正成/安部龍太郎 

南北朝動乱の時代を舞台に、佐々木道誉楠木正成の、道の分かれた二人の武将を描いた描いた歴史小説

婆娑羅大名(華美であったり奇矯であったりする衣装や振る舞いを好む)として知られる佐々木道誉近江源氏の流れを汲む名門武家であるが、近畿の輸送の権益を押さえ、莫大な収益を上げる商業的武士でもある。楠木正成も同様に輸送や交易で大きくなってきており、共に回天の志をもって南朝方に与し、北条政権(鎌倉幕府)を倒すが、建武の新政が失敗しようとしているの見て道誉が離反、両者とも開明的で理知的で腹の据わった武将であり、お互い同士を認めているのだが、敵対することになる。

歴史小説・時代小説はは現代の世情とリンクさせることが多いが、やたらと「政権」という単語が頻出するし、2009年の出版と言うことで、おそらく現実の政権交代を視野に入れての筋立てかと思える。

そして、建武の新政武家政権の不満を招いて失敗し、やがて足利幕府への道筋に至る描き方は、正に民主党の現在を予見していたかのようだ。強権的で冷酷で、自分に異を唱える者は許さない後醍醐の描き方は、そうすると小○一郎かなぁと思ったりする。

正成は後醍醐の皇子である大塔宮の高潔な人柄に惚れ込んでおり、だからこそ後醍醐の勘気に触れた大塔宮の復帰を期待して南朝方を支えようとし続けるが、道誉の方はさっさと後醍醐に見切りを付けていて、二人の行く末は大きく分かれる。その友誼は最後まで変わらず、好漢が好漢を知るという気持ちの良い(かつ切ない)物語になっているが、高い志をもってより良い日本を作ろうとした二人が清々しい。