本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

時代・歴史小説

銀漢の賦/葉室麟

少年時代は親友、後に袂を分かった二人の老武士の硬骨の生き方を描く時代小説。月ヶ瀬藩日下部源五、岡本小弥太(後に松浦将監)は、十代の頃の道場仲間であり、親友でもあったが、五十を過ぎた現在は、片や郷廻り役人、片や家老と身分が分かれ、一揆の処理…

つくもがみ貸します/畠中恵

古道具屋兼損料屋*1の出雲屋は、しとやかな外面と裏腹に勝気で強気のお紅と、道具を見る目は確かながらお紅に頭の上がらない弱気な清次の、義理の姉弟で営んでいるが、出雲屋に置かれている商売道具は、百年の時を経て妖となった付喪神が多く、店内では何や…

新 三河物語/宮城谷昌光

「三河物語」は大久保彦左衛門忠教による徳川家と大久保家の勃興を記した史書であり、本書はそこに材を取った歴史小説である。主人公の大久保彦左衛門と言えば天下のご意見番というイメージが強く、時の幕府に対して横紙破りの言いがかりを付ける因業爺いと…

アラスカ物語/新田次郎

明治時代にアラスカに渡り、先住民のリーダーとなったフランク安田の生涯を描く評伝サバイバル小説である。安田恭輔は宮城県石巻市の医業の家に生まれるが父の急死により没落、15歳で三菱汽船の給仕となり、その後、外国航路の船員、アメリカの農園の労働…

深川にゃんにゃん横丁/宇江佐真理

新潮文庫の新刊に入ったので再掲いたします。 猫好きが多く住み、外猫として世話する人が多い喜兵衛店(きへえだな)にほど近い小路はにゃんにゃん横丁と呼ばれ、常時猫がたむろしている。その喜兵衛店の大家徳兵衛を中心に、にゃんにゃん横丁に暮らす人々の…

謎斬り右近/中路啓太 

「火の児の剣」がむちゃくちゃに面白かった中路啓太作品。高台院(秀吉の正妻・北政所)の甥・木下右衛門大夫延俊の長男で、剣の腕の立つ木下右近俊基を主人公に、豊国神宝をめぐる争いを描く伝奇時代小説である。右近は剣の腕は立つものの、血気にはやる単…

象牙色の賢者/佐藤賢一

作家のアレクサンドル・デュマ家三代を描いた三部作の最終巻。フランス貴族と植民地奴隷の間に生まれ、ナポレオン麾下の将軍として名を馳せたデュマ将軍の生涯を描いたのが「黒い悪魔」、陽気で無邪気で自己中心的で自分好きの快男児作家アレクサンドル・デ…

天地明察/冲方丁 

言わずと知れた本屋大賞受賞作のベストセラー。読んだのは今年の2月だが(マルドゥック・スクランブルの冲方丁が時代小説を書いたと聞けば見過ごすわけには行かない!)、今頃の掲載・・・(汗)。 将軍が家綱から綱吉に代わる頃、貞享暦改暦事業に打ち込む…

木練柿/あさのあつこ 

「弥勒の月」「夜叉桜」に続く著者の時代小説シリーズ三作目である。切れ者で冷酷で残虐でニヒルで、そのくせ妙な愛嬌のある町奉行所同心・木暮信次郎と、暗殺者だった暗い過去を持つ商人・遠野屋との、お互いを認めつつ嫌っているような、妙な交流が読みど…

商人(あきんど)/ねじめ正一

江戸の味に合う鰹節を作り出し、現金掛け値なしの店売りの商法も編み出した伊勢屋にんべん三代目伊之助の山あり谷ありの人生と奮闘を、店の盛衰とともに描いた時代小説である。父親が一代で起こした伊勢屋は、大名家にも出入するような大店だったが、父の死…

黒い悪魔/佐藤賢一

10年ほど前はアレクサンドル・デュマばりの波瀾万丈西洋時代小説を主に書いていた佐藤賢一だが、本作はそのデュマの父親の描いた評伝歴史小説である。仏領ハイチで白人貴族と黒人奴隷の間に生まれ、長じてフランス共和国軍の将軍となり「黒い悪魔」と恐れ…

戊辰算学戦記/金重明(キムチョンミョン)

将軍慶喜が大政奉還した後、越後に脱走して抵抗を続ける幕府の軍学者結城勘兵衛と片田舎の算士との交流と、戊辰戦争の局地的な戦闘を描いた算学小説である。勘兵衛は幕府顧問であったフランス軍人から西洋数学の指導を受け、暇なときには常に公式や定理につ…

弩/下川博 

南北朝時代の因幡地方、惣村に攻め寄せてくる悪党から村を守ろうと奮闘する農民たちを描いた時代小説である。弩(ど)とは横にした弓を引き絞っておいてフックし、引き金によって発射されるようにした武器で、古代中国から使われ、日本でも出土しているらし…

実さえ花さえ/朝井まかて

園芸文化が隆盛を誇った江戸期の向嶋で、趣味の良い小さな苗物屋を営む信次とおりんの花師夫婦の春秋を描いた園芸時代小説である。花師とは、育苗や育種を専門とする職人で、いわば江戸のナーセリーであろう。江戸の園芸に興味がある植物好きには設定がたま…

泣き虫弱虫諸葛孔明  第弐部 /酒見賢一

正史三国志と三国演義における矛盾に無茶なツッコミを入れつつ、劉備がいかにリーダーとしての資質を欠いているか、宇宙的変質者の孔明が魏呉を相手にいかなるいかさまマジックを使うかをスラップスティックに綴った三国志外伝の第二弾である。今回は荊州の…

三国志/柴田錬三郎 

桃園の誓いから赤壁の戦いまで、あっという間に(300ページほど)語られてしまうシバレン版三国志。解説を読むと児童文学として書かれた由が書かれていて、なるほどなと思った。精緻な政治状況の描写とか、戦いに赴く悲壮感やヒロイズムなどは描かれず、…

[鬼振袖 国芳一門浮世絵草紙3/河治和香 

「侠風むすめ」「あだ惚れ」に続く、鬼才浮世絵画家歌川国芳の娘・登鯉(一燕斎芳鳥)の青春を描く時代小説シリーズの第三弾である。このシリーズは登鯉の青春の焦燥を情緒的かつユーモラスに綴って読ませるが、19才になった登鯉には嫁き遅れを心配する周…

血涙 新楊家将(上・下)/北方謙三 

北宋の時代、軍閥楊家軍を率いる楊業が、精強すぎるが故に国主から信用されず、戦いの中で死んでいくまでの悲劇を描いたのが「楊家将」で、本作は、楊業の死後、遺児たちの戦いを描いたものである。精強な軍閥楊家軍を率いていた楊業は陳家谷の戦いで戦死、…

算法少女/遠藤寛子 

三十年ほど前に書かれた児童向け時代小説であるが、江戸時代に実際に「算法少女」という算術指南書があったらしく、作者の分からないその本に、著者が想像で肉付けをしていったものだそうだ。町医者千葉桃三の娘おあきは、父から算法の手ほどきを受け、かな…

ちんぷんかん/畠中恵

大店長崎屋の病弱な若旦那と愉快な妖(あやかし)たちの活躍が楽しい時代ファンタジー「しゃばけシリーズ」の五冊目である。相変わらず一太郎は病弱で、火事の煙に巻かれて三途の川の淵まで出かけたりしている(笑)。庶兄の縁談や、幼なじみで、菓子屋の跡…

晏子/宮城谷昌光 

春秋時代の斉の公室を親子二代にわたって支えた晏弱・晏嬰の活躍を描いた中国史小説である。斉の国は、太公望の建国より不可侵の大国として存してきたが、二大強国となった晋と楚のどちらに付くかで揺れ動く状態となっていた。そして、晋からの使者を揶揄し…

算学奇人伝/永井義男

主人公の吉井長七は千住の大手青物問屋万徳屋の長男だったが、子供の頃より数字に興味を持ち、長じては算学に関心を抱きすぎて家督を弟に譲り、実家よりの援助で算学三昧の悠々自適の日々を送っている。そこに持ち込まれるトラブルを算学を用いて解決すると…

空海の風景(上・下)/司馬遼太郎 

平安時代、日本仏教に大変革をもたらし、書芸、画芸、文芸のみならず、経済や土木などの分野でも異能を発揮した巨人空海の人生や事績を丹念に辿った評伝文学とでも言うべきか。小説と銘打ちながら著者の考察に終始しているのは司馬作品のいつもの手法だが、…

弥勒の月/あさのあつこ

「バッテリー」などで人気の児童文学の旗手あさのあつこ初の時代小説である。商家のおかみが掘り割りに身を投げて自殺した事件を、変わり者の同心が探っていくというミステリアスな趣。木暮信次郎は伝法で冷酷で無神経な同心である。岡っ引きの伊佐治(ぐれ…

夜叉桜/あさのあつこ

人気児童文学シリーズ「バッテリー」でブレイクした著者初の時代小説「弥勒の月」の続編。有能でニヒルで冷酷で残虐で、そのくせ妙な愛嬌がある八丁堀同心・木暮信次郎が遊女連続殺人の謎を解く時代ハードボイルドと言ったところだろうか。信次郎の他にも、…

海王(上・下)/宮本昌孝

武人として超越しており、清爽さでひとを魅了し、乱れる世に平穏をもたらそうとしながら非命に斃れた快男児・足利義輝(室町幕府十五代将軍)の生涯を描いた「剣豪将軍義輝」の続編にあたり、義輝の落胤である海王(ハイワン)が父親と同様に胸透く活躍をす…

青に候/志水辰夫

「飢えて狼」「背いて故郷」「裂けて海峡」など、体言止めを多用した気取った文体(いわゆるシミタツ節)の抒情派ハードボイルドで一世を風靡した著者の作風は、ストーリー的には面白いと思うもののあまり好きではなかったが(文芸評論家の北上次郎のように…

果ての花火 銀座開化おもかげ草紙/松井今朝子

幕末の騒動で燃え尽きた御家人の次男坊久保田宗八郎は、胸に鬱勃たる思いを秘めながら明治開化の銀座の街で世捨て人のように暮らしているが、宿敵への憎悪など熱い思いも残っており、何かと世間と関わることになる。 「幕末あどれさん」「銀座開化事件帖(銀…

踊る陰陽師 山科卿醒笑譚/岩井三四二

室町、安土桃山にかけての庶民の苦労やしたたかさを描くのが岩井作品の特色だが、今回も、「父と兄が死亡し、急遽、家を継いだものの客が付かない陰陽師」「曲舞(くせまい)の芸人娘に無理難題を言われる座元」「故郷の村の急場を何となしなければならない…

御家人斬九郎/柴田錬三郎

松平残九郎は、家柄は大給松平に連なる名家ながら無頼な貧乏御家人で、剣の腕が冴えているため、大名・大身旗本・豪商・豪農などが秘密裏に処分する罪人の介錯をかたてわざ(副業)としており、付いた渾名が斬九郎。この斬九郎の活躍を描く痛快な時代連作で…