本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ちょちょら/畠中恵

多々良木藩の新任江戸留守居役、間野新之助が悪戦苦闘する時代小説である。

新之助の兄は有能で剣の腕も立つ有望な江戸留守居役だったが、任務に失敗、腹を切って果て、その後を新之助が引き継ぐことになる。

江戸留守居役とは、江戸において幕府との折衝をする藩の外交官であり、お手伝い普請(幕府から公共工事の負担を命じられる)を逃れることが大事な役目なのだが、多々良木藩はこのお手伝い普請を言いつかってしまい、もう一度これを食らうと藩がつぶれるという切羽詰まった状況なのである。

のほほんとして人の好い、いかにも畠中作品の主人公らしい新之助は、他藩の海千山千の江戸留守居役に愛の鞭でしごかれ、自分はやっていけるのだろうかと思い悩んでいるが、再び持ち上がってきた難題に立ち向かっていく。

江戸留守居役は、現在で言えば地方自治体の東京事務所駐在員と言ったところだろうか。幕閣の要人を接待するため、また、江戸城内の表坊主につなぎを作るために莫大な費用を使うので、藩内からも無駄な贅沢なしていると白い目で見られがちだが、藩の浮沈に関わる重要な任務であり、そのあたりもスリリングに描かれている。新之助の奇策は、正直なところそんなに効き目があるのかしらんと思わないでもないがとにかく面白い。お気楽ほんわかな作風だけではなく、こんな骨太な作品も書けるんだなと思わせた。