本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

三悪人/田牧大和

講談社文庫新刊にて再掲。


三悪人とは、主人公の遠山金四郎鳥居耀蔵、少壮の寺社奉行水野左近衛将監忠邦のことで、この三人の騙し合い化かし合いが展開されるスリリングな時代小説。

水野と鳥居といえば、厳しい引き締めを行った老中と、老中の政策の為に監視活動を行う悪辣な南町奉行という悪役コンビのイメージがあるが、この作品でタッグを組むのは遠山金四郎鳥居耀蔵である。共に無頼なならず者であり、何かおもしれぇことはないかと世間を徘徊しているが、売り出し中の水野忠邦の悪事のネタをつかみ、脅迫して罠にかけてやろうと計画するのでだ。このあたり、河内山宗俊が思い出される。

水野は凄絶な美貌の冷酷残虐な能吏として描かれる。出世のためにはひとを利用し使い捨てることにためらいを覚えず、役に立たなければ闇に葬ってしまうような悪逆さだが、美貌と相まって独特の魅力を発揮する。歌舞伎で言うところの「色悪」というところか。側近・小山田縫殿助も主人と同じような思考の持ち主であり、この極悪コンビが見せ場を作ってくれる(笑)。

金四郎には吉原に馴染みの遊女がいる。やんごとない生まれだが薄幸の身の上で、この遊女を救い出す計画の片棒を水野に担がせようとするわけである。水野は切れ者であるから、その辺の事情を探り出し、逆に金四郎を罠にかけようとするが、このあたりの化かし合いがスリリングでたまらない。

金四郎と結託する鳥居耀蔵もいい味を出している。小普請の若者として無頼な生活を送っており、元々水野を脅そうというネタを金四郎に持ち込んできたのが鳥居なのだ。狛犬のような異相、粗雑でやかましくて相手の神経を逆撫でする名人、空気を読んで適切な手を打つ切れ者など、後に「妖怪」とあだ名されるようになる素質は十分なのだが、薄幸の遊女に同情して肩入れするなど、意外に純情な面を見せることもあり、なかなか魅力的だ。行動に整合性のある金四郎と違い、全体にバランスが悪く、滑稽な男として描かれているのでキャラが立っているのかもしれない。

個性的な三悪人の思惑が入り混じり、スリリングな騙しあいが展開し、時代謀略小説というか時代コンゲーム小説というか、手に汗握る異色作である。