本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ミステリー・冒険小説・サスペンス

丸太の鷹/火浦功

スチャラカなんちゃってハードボイルド「ハードボイルドで行こう」の続編。遅筆で有名な火浦作品を読むのは多分20年ぶりくらいになる。正統派ハードボイルドに憧れる私立探偵山本辰吉、おとぼけC調脳天気な助手銀次、銀次より多少マシなくらいのアシスタン…

半落ち/横山秀夫

罪を犯した警察官と、彼に関わった警察・マスコミ・司法の人間たちの心理を濃密に描いた警察小説である。社会派ミステリーの感があり、松本清張作品を一冊も読んだことがない自分としては敬遠しがちな作品だが、まぁ、話題作だったので、という感じで読んで…

異界/鳥飼否宇

那智勝浦を舞台に、ある医師一家を襲う不気味な事件の解決に南方熊楠が挑むという熊野伝奇ミステリー。おどろおどろしく生と死を豊饒に抱え込む熊野の地は元から好きな土地だし、更に異形扱いされるサンカが絡むとなればこれはもうたまらない設定だ。産科も…

銀輪の覇者/斉藤純

昭和9年、東京でのオリンピック開催に向けて、自転車競技のアマチュア化が推し進められている時代に逆行するように、下関から青森までを駆け抜ける、賞金付きの大日本サイクルレースが開催される。実用車のみという参加条件、食わせ者らしい主催者、元選手…

男たちは北へ/風間一輝 

自転車の旅と自衛隊内の謀略が交互に語られる、センチメンタルな傑作ロードミステリー。狂気の自衛隊幹部によるクーデター計画の概要を記した印刷物が、偶然のことから桐沢風太郎(自転車で旅するフリーのグラフィックデザイナー)に拾われる。これを奪回す…

快盗タナーは眠らない/ローレンス・ブロック

元アルコール中毒の探偵が己と闘いながら事件と対峙するマット・スカダーシリーズや、泥棒と古本屋を兼業するバーニーが活躍する軽妙なシリーズなどで人気のあるローレンス・ブロックだが、60年代に執筆していた軽スパイ物が今頃になって翻訳されたそうだ。…

午前3時のルースター/垣根涼介

旅行会社勤務の長瀬に、中堅企業のオーナー社長から、孫の慎一郎のベトナムへの旅に個人的に添乗してくれないかという依頼がある。慎一郎の父親(社長の娘婿)は新規工場開発の為にベトナムで奔走していて行方不明になっているが、テレビのドキュメンタリー…

カワセミの森で/芦原すなお

本作より以前に出版されている「山桃寺まえみち」の主人公ミラちゃんが高校生時代に遭遇した連続殺人を顛末を描く青春ミステリー。ポプラ社のヤングアダルト向けミステリー叢書「ミステリーYA!」の一冊。この作者は、「青春デンデケデケデケデケ」で直木…

夜が終わる場所/クレイグ・ホールデン 

「リバー・ソロー」など、思索的な文学ミステリーで人気の作者による警察小説。アメリカ中西部の町でタマラという少女が失踪する。語り手であるマックス・スタイナーは、相棒のバンク・アルバーと捜査に当たるが、バン>クには、数年前に義理の娘ジェイミーが…

紙の迷宮(上・下)/デイヴィッド・リス 

18世紀初頭のロンドンで、異教徒として蔑まれるユダヤ人の支配する金融をモチーフに、人々の様々な思惑が絡み合った時代ハードボイルドである。元ボクサーで、盗賊捕獲人、盗品探し、その他もめ事解決を生業としているベンジャミン・ウィーヴァーは、ユダ…

ストリート・キッズ/ドン・ウィンズロウ

顧客のトラブル処理のための銀行内組織“朋友会”の腕っこき探偵であるニール・ケアリーを主人公にしたシリーズの第一作。麻薬中毒で売春婦の母親を持ち、路上でスリ稼ぎをするような子供だったニールは、朋友会の有能な探偵ジョー・グレアムの財布をすろうと…

ハナシにならん! 笑酔亭梅寿謎解噺2/田中啓文 

更正するために破天荒な落語家に弟子入りさせられたら天稟を示してしまった元暴走族星祭竜二が、落語の現場で起こるちょっとした謎を解いてみせる連作爆笑青春ミステリー「ハナシが違う!」に続く第二弾である。乱暴者だか侠気と愛嬌がある笑酔亭梅寿師匠が…

ホームタウン/小路幸也

主人公・行島柾人はデパートのトラブルシューターをしている青年で、両親が殺し合いの果てに死亡しており、自分たちに流れる人殺しの血を恐れて妹・木実と離れて暮らしている。妹から結婚を知らせる手紙が届いて喜んだのも束の間、彼女が行方不明になってい…

獣たちの庭園/ジェフリー・ディーヴァー

あざといくらいなどんでん返しが魅力のジェフリー・ディーヴァーによる初の歴史ミステリ。悪辣なギャングだけを標的にする殺し屋ポール・シューマンは、海軍の罠に嵌められ拘束される。ナチス高官の暗殺と引き替えに、前科を帳消しにしてやるというのである…

東京バンドワゴン/小路幸也

東京の下町で古本屋を営む4世代8人の大家族を舞台に、ややミステリー的な興味をからめながら涙と笑いの人情ドラマが展開される。書評でもホームドラマの雰囲気と書かれているが、本編にホームドラマへの献辞がある。物語を語るのはすでに亡くなっているお…

フラッシュ/カール・ハイアセン

フロリダの豊かな自然を愛し、環境を守るためなら非常識で過激な行動も辞さない善人と、俗悪な観光業者・開発業者とのトラブルをテーマにスラップスティックなミステリーを書き続けるカール・ハイアセンの、「HOOT」に続くヤングアダルトノベル。海水浴場に…

落下する緑/田中啓文

ジャズミュージシャンのコンビが音楽の現場で起きるさまざまな謎を解く連作ミステリー。光文社の文芸オーディションで鮎川哲也の選に入ったデビュー作を連作化したもので、編者側からギャグもグロもダジャレも禁止という命が入っていたらしいが、その割りに…

石の猿/ジェフリー・ディーヴァー

元ニューヨーク市警科学捜査部長である四肢麻痺患者、リンカーン・ライムが活躍するシリーズの第四弾。ライムは有能な鑑識捜査官だったが、現場の事故で脊髄損傷し、ほとんど体の動かない状態。狷介で取っつきにくい男であるが、優秀な頭脳と悪を憎む心を有…

街の灯/北村薫

戦前の東京を舞台にした連作ミステリで、富裕な家の活発なお嬢様探偵が活躍する。お嬢様付きの運転手として新たに雇われたのは武術の達人かつ妙齢の美女の別宮(べっく)という女性で、お嬢様の読んでいた小説の主人公に因んでベッキーさんと呼ばれることに…

虹の家のアリス/加納朋子

不思議の国のアリスになぞらえた謎解きミステリー「螺旋階段のアリス」続編。早期退職して探偵行を始めた仁木と、彼のもとにふいに現れた不思議な美少女との活躍を描いて好調だ。駒子シリーズの「スペース」を読んだ時にも感じたが、この作家、「優しさ」だ…

魔法飛行/加納朋子

「ななつのこ」続編。女子大生入江駒子の手紙によって謎が提示され、謎解きの返信があるという形は「ななつのこ」と同様だ。今回もあまり物騒な事件はなく、楽しく優しい世界に仕上がっているが、張り巡らされた伏線の快感と、時々挿入されるストーカー的な…

ウォータースライドをのぼれ/ドン・ウィンズロウ

元ストリードキッドの減らず口叩き探偵ニール・ケアリーシリーズ第4弾。実に6年ぶりの刊行らしい。またもや義父ジョー・グレアムがトラブルを運んで来るという幕開けだ。レストランチェーンを持ち、ケーブルテレビ局で良質の家族向け番組を放送しているカ…

電子の星 池袋ウェストゲートパーク4/石田衣良

池袋とのストリートを駆け抜けるマコト(果物屋とトラブルシューターとフリーライターの兼業)の活躍を描くシリーズの4作目。陰惨な事件を追っている割りには、希望を感じさせるのは毎度のことだ。 「東口ラーメンライン」 池袋を仕切るチーマーのヘッド崇…

ワイルド・ソウル/垣根涼介

戦後の棄民政策で、甘い言葉に騙されて地獄のようなアマゾン奥地に送り込まれた日系移民の二世たちが、日本である企みを実行するという冒険小説的な作品。輻輳するストーリー、張り巡らされた伏線、登場人物達の葛藤と克己など、実に読みどころのある物語だ…

ファイナル・カントリー/ジェイムズ・クラムリー

詩情豊かなハードボイルド、酔いどれ探偵ミロシリーズの4作目。故郷のモンタナを離れ、前作で恋人となった女性との縁でテキサスでモテルと酒場を始めたミロだが、そろそろ退屈してきており、探偵仕事を再開している。妹をレイプし殺した犯人をおびき出すの…