本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ミステリー・冒険小説・サスペンス

和菓子のアン/坂木司 

デパ地下に出店する和菓子屋を舞台にした美味しいミステリー。主人公の梅本杏子はお菓子が大好きな丸ぽちゃの18歳である。高校卒業に際し、無駄に大学へ行く気はないがすぐに就職して人生が決まるのも何だかなぁとモラトリアムなことを考えているうちに五…

ジョーカー・ゲーム/柳広司

数年前に話題になった、戦前日本を舞台とする連作スパイミステリー。「敵に囚われたら潔く戦って死ね」の武士道を信奉する帝国陸軍に、異端のスパイ養成組織D機関が誕生する。隠密に行動し、決して戦わぬ組織は旧弊な陸軍においては卑怯者の集まりに過ぎず…

タルト・タタンの夢/近藤史恵

文庫化にて再掲。とても美味しいミステリー連作である。語り手がホール係として勤めるビストロ・ラ・バルは商店街の一角にある小さな店だが、フランスの家庭的な惣菜料理が人気で、固定客も付いている。そんな店で起こる「なぜ常連の西田さんは食欲不振にな…

ぐるぐる猿と歌う鳥/加納朋子

文庫化にて再掲。 加納朋子が児童向けミステリー叢書「講談社ミステリーランド」に書き下ろしたミステリー風味の少年小説である。主人公の高見森(タカミシン)は無鉄砲でへそ曲がりな小学五年生だ。父親の転勤で北九州の社宅に引っ越し、地域の子供達と知り…

漂う殺人鬼/ピーター・ラヴゼイ 

バース警察署のピーター・ダイヤモンド警視の活躍を描くシリーズ8作目。混み合う海水浴場で単独の海水浴客が殺された。衆人環視の中、目撃者はない。捜査に当たるボグナー・リージス署のヘンリエッタ・マリン主任警部は被害者の身元を突き止めるのに苦労す…

最期の声/ピーター・ラヴゼイ

傲慢で頑固で協調性がなく、上層部からは疎まれているが勘と粘り強さで最終的に事件を解決してしまう優秀な刑事なのでそれなりに評価が高いピーター・ダイヤモンド警視の活躍をユーモラスに描くシリーズの七作目である。 今回はダイヤモンド警視の良き伴侶ス…

せどり男爵数奇譚/梶山季之

HAEART GRAFFITIのフウガさんに教えて頂いた、古書をめぐる連作奇想小説。著者自身と思しき物書きが語り手なのでエッセイかノンフィクションかと思ってしまうが、古書業界や書痴たちの奇抜さを描くエログロナンセンス的なサスペンスである。せどりとは、古書…

青空の卵/坂木司

ひきこもり気味のプログラマが、語り手の友人が持ち込む「男を狙う連続通り魔」「盲人青年を尾行する男女の双子」「歌舞伎役者への風変わりなプレゼント」「町で保護したまりお少年の正体とは」など、さほど深刻ではない謎を鮮やかに解いてみせる連作ミステ…

鷺と雪/北村薫 

「街の灯」「玻璃の天」に続き、戦前の上流家庭のお嬢様とそのお付きの女性運転手(容姿端麗で頭脳明晰で腕も立つというスーパーウーマン)が探偵となり、日常のちょっとした謎を解いてみせる連作ミステリーシリーズの三作目で、本作で直木賞を受賞。おそら…

玻璃の天/北村薫

戦前の学習院の生徒と思しきお嬢様と、美貌で武術の達人で頭の切れる女性運転手別宮(ベッキーさんと呼ばれている)が、行く先々でぶつかるトラブルや謎を解決するシリーズの第二弾。第三弾で直木賞を受賞。活発で好奇心旺盛のお嬢様探偵が楽しく、それを戦…

名探偵カッレとスパイ団/アストリッド・リンドグレーン 

カッレくんシリーズ第三弾。またも夏休みの輝かしい日々を過ごすことになったカッレ、アンデス、エーヴァ・ロッタの三人が、今度は謀略騒ぎに巻き込まれた幼児を助けるために奮闘する。バラ戦争のさなか、子供好きのエーヴァ・ロッタは、郊外の一軒家で見か…

カッレくんの冒険/アストリッド・リンドグレーン

カッレくんシリーズの第二弾。今度は本格的に殺人事件と関わることになる名探偵ブルムクヴィストである。仲良しの悪童たちが繰り広げるバラ戦争の課程でエーヴァ・ロッタが高利貸しを殺したと思われる犯人を目撃してしまう。それが新聞に掲載されてしまい、…

名探偵カッレくん/アストリッド・リンドグレーン 

子供の頃に親しんだ名作児童文学の読み直しモードに入っており、これも35年ぶりくらいの再読だろうか。今で言えばYA向けの讀物になるだろう。カッレ・ブルムクヴィストは食料品店の息子で、ホームズやポアロに憧れて日々探偵活動に明け暮れ町の治安を守って…

風の向くまま/ジル・チャーチル

ジル・チャーチルはコージーミステリーで人気の作家だが、本作は1930年前後の都市郊外ヴォールブルグ・オン・ハドソンをを舞台にしたユーモアミステリーシリーズの開幕編。主人公はロバートとリリーの兄妹。二人は資産家の家庭に育ったが、大恐慌で父親は没…

ギフト/日明恩 

作家名は「タチモリ メグミ」と読みます(笑)。主人公の須賀原は警官を退職した男で、レンタルDVDショップの店員をしながら逼塞して生きている。追跡ののちに中学生を死に至らせてしまったため、心に深い傷を負っているのだ。仕事中、ホラー映画の棚の前で…

ダ・ヴィンチ・コード/ダン・ブラウン

宗教象徴学者ロバート・ラングドンが聖杯の謎を解くべく、フランス司法警察に追われながらフランスとイギリスをドタバタと駆けまわるノンストップ伝奇ミステリー。この話題作を今頃読んでいる(笑)。ルーブル美術館館長のジャック・ソニエールが狂信者と思…

マイ・ブルー・ヘブン/小路幸也 

賑やかな大家族の古本屋に起こる日常のちょっとした謎を描いたホームコメディミステリー「東京バンドワゴンシリーズ」の第四弾だが、本作は、語り手である堀田サチ(本編では幽霊として一家を見守っているという設定)の意外な過去が描かれる前日譚。ユーモ…

最高の銀行強盗のための47ヶ条/トロイ・クック

9才の時から父親ワイアットの銀行強盗の相棒にされてきたセクシー美女タラは、最近のワイアットの殺人狂ぶりに嫌悪を感じ始めていたが、ストーニーブルックという田舎町でマックスと一目ぼれの恋に落ちる。マックスは誠実で侠気もあるが、ろくでなしの親戚…

八十日間世界一周/ジュール・ヴェルヌ 

有名な古典作品で、映画化もされている。関係ないが映画の主題曲は旅情をかき立てるなぁ。交通が発達して離れた大陸との移動時間が短くなり始めた十九世紀末、イギリス紳士のフィリアス・フォッグは八十日間で地球一週が出来るかという無謀な賭けをする。機…

藁の楯/木内一裕 

ビーバップハイスクールのきうちかずひろが小説家としてもデビューしていたらしい。まぁ、漫画のストーリーを作れる以上、小説だって書けても不思議はない。本書は警視庁警護課のSPを主人公としたポリスアクションである。資産家の孫娘が変質者に虐殺され、…

辛い飴/田中啓文

ベテラントランペッター唐島英治が語り手となり、クインテットの面々が遭遇する謎や不思議をテナーサックス奏者の永見緋太郎が鮮やかに解いてみせるジャズ・ミステリ「落下する緑」に続くシリーズ第二弾。温厚で風格のある唐島に対し、音楽しか興味のない天…

迎え火の山/熊谷達也

先祖を迎えるためのかがり火を並べる「採燈祭」が久しぶりに計画されている旧盆に、湯殿山山麓に連なる村で三人の幼なじみが再会する。東京で芽の出ないフリーライターをしている工藤、採燈祭を企画した土谷、奇妙な家に育った木村由香の三人は、採燈祭にま…

毒杯の囀り/ポール・ドハティー

1377年のロンドンを舞台にした歴史ミステリー。 幼い国王が王位を継いだばかりの宮廷にコネクションを持つ金融業者トーマス・スプリンガル卿が毒殺され、忠実な召使いが毒物の証拠を保持して自殺した。スプリンガル卿の寝室は鶯張りのごとき「小夜鳴鳥の…

ライオンの冬/沢木冬吾 

大戦中に狙撃兵としてフィリピンを転戦し、現在は東北の山中で獣を狩って暮らす山じじぃ伊沢吾郎がフィリピンで受けた流れ弾に関わる謀略に、街で起きた児童誘拐がからんで、冬の山中での壮絶な銃撃戦が描かれる山岳冒険小説である。吾郎老人の受けた流れ弾…

サクリファイス/近藤史恵

自転車ロードレースチーム内の事故の真相を追う青春ミステリーである。主人公の白石誓(ちか)は、かつては将来を嘱望された陸上選手だったが、結果ばかりを追いかける周囲の期待が嫌になり、エースを優勝させるための踏み台の立場もある自転車競技に魅了さ…

オババの森の木登り探偵/平野肇 

この作家についてはまったく無知で、図書館の棚で、アウトドアなタイトルが気になったので引き抜いてみたもの。自然の中で子供が活躍するミステリーかと思ったが、そういう子供が大人になってからの物語だった。東京目黒に奇跡的に残る森は子供の好奇心を惹…

暗く聖なる夜(上・下)/マイクル・コナリー 

ロス市警ハリウッド署のはみ出し刑事ハリー・ボッシュを主人公にしたシリーズの一冊だが、本作から刑事を辞め、私立探偵として登場している。ベトナム戦争従軍の過去を持つハリー・ボッシュは、独自の規範と正義感から行動しがちで、組織からははみ出してい…

チーム・バチスタの栄光/海堂尊

あまりにも有名な作品なので、今更の感もありますが・・・(汗)。大学病院における連続不審死事件の謎解きを描く、言わずと知れた医療ミステリのベストセラーである。バチスタ手術(拡張型心筋症の肥大した部分を切除してしまう心臓手術の手法)の名手・桐…

カカオ80%の夏/永井するみ 

中高生向けミステリー叢書ミステリーYA!(理論社)の一冊。お嬢様の多い私立女子高で孤高を貫くクールな三浦凪が、夏休み中に行方不明になった友人雪絵を見つけるべく奮闘する女子高生ハードボイルドである。男に頼らなければ生きていけない大学教授の母を持…

天使はモップを持って/近藤史恵

新入社員梶本大介が社内で直面する様々な謎を、ビル清掃作業員キリコが鮮やかに解き明かす連作ユーモアミステリー。本書の魅力は何と言ってもキリコである。年齢は不詳ながら二十歳前くらい、コギャルのごときファッションの明るく小生意気な女の子で、嬉々…