本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

半落ち/横山秀夫

罪を犯した警察官と、彼に関わった警察・マスコミ・司法の人間たちの心理を濃密に描いた警察小説である。社会派ミステリーの感があり、松本清張作品を一冊も読んだことがない自分としては敬遠しがちな作品だが、まぁ、話題作だったので、という感じで読んでみた。

温厚で寡黙な警察学校教官梶聡一郎は「妻を殺した」と自首してくる。若年性アルツハイマーである妻に頼まれて絞殺してしまったという。供述は整然としており、事件自体に不審な点はないが、妻の遺体を放置した二日間が問題になり、警察の管理部門、強行犯指導官(取り調べの名手)、検事、新聞記者、裁判官、刑務所の刑務官などが、それぞれ梶を見つめ、梶の沈黙の正体に迫ろうとする。決して口を開かない梶は澄んだ瞳をしており、これも彼らに不審と焦燥を抱かせるのだ。

各々が所属する組織のしがらみにとらわれなら事件の本質に迫ろうとする男たちの描きように迫力とリアリズムがある。ただ、最終段階になってとんとんと謎が解き明かされ、感動のエンディングを迎えるのはやや安易かと思う。出来れば、謎を謎としたままであっと驚くようなエンディングにして欲しかったが・・・。

この小説は直木賞候補作だったが、審査員に些細なけちを付けられて落選したという経緯がある。詳細(ネタバレ)はhttp://www5a.biglobe.ne.jp/~katsuaki/sesou49.htmにあるが、某女性作家の傲慢さが腹立たしい。  

著者はこの事態によって直木賞訣別宣言をした。売れるか売れないかの評価は消費者が決めるもので、お手当を貰って評論している批評家(と言うより、商売敵とも言えるベテラン作家)の言よりも重いと思うが、それでも直木賞芥川賞受賞作家の肩書きがあるかどうかは作家のランク付けと関わるらしいから、取れるものなら採っておきたいだろうなぁとは思う(映画「おくりびと」も、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したらあれだけ扱いが違うわけだし・・・)。