本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

石の猿/ジェフリー・ディーヴァー

ニューヨーク市警科学捜査部長である四肢麻痺患者、リンカーン・ライムが活躍するシリーズの第四弾。

ライムは有能な鑑識捜査官だったが、現場の事故で脊髄損傷し、ほとんど体の動かない状態。狷介で取っつきにくい男であるが、優秀な頭脳と悪を憎む心を有し、難解な捜査に協力している。

体が動かないライムのために現場に出動するのが、赤毛の美女でモデルの経験もあるアメリア・サックス巡査、銃と車に目がないながら閉所恐怖症で関節炎持ちという、なかなか笑える設定でもある。こちらも自立的な性格をしており、ときおりライムと衝突しるがいいコンビだ。鑑識のいろはをライムにたたき込まれているが、現場で犯人に同化できる想像力があり、そのことが微細証拠物件の発見に繋がったりする。この辺はちょっとサイコ(笑)。

今回の「石の猿」では、中国から密航者を運ぶ蛇頭ゴースト(凶悪な殺人犯でもあります)の逮捕がライムに課せられた任務。密航船の詳細は分からないまま、ロシアからアメリカに向かったという情報から船名と航路を推測して見せたライムだが、沿岸警備隊が捕捉する寸前にゴーストは船を爆破して逃げ出し、しかも目撃証人を消すためか、密航者を殺害していく。逃げおおせた二家族を追うゴーストと、二家族を保護しゴーストを逮捕したいライムとの、鑑識の知識を生かした追跡劇は二転三転するストーリー、手に汗握る展開、最後までハラハラさせるジェット・コースター・ミステリである。

ケレン味たっぷりのストーリーの他に、巧みな人物造形、物語のディテールなどもこの小説の読みどころだ。逃げ延びた中国人家族の父親は反体制活動家で、己のやってきたことに自信を持っていたが、そのために差別されてきた息子は父親に反発しており、そのあたりも事件と繋がっている。

「石の猿」とは孫悟空のことで、登場人物の一人が提げているペンダントが物語のモチーフとして様々に語られる。中国人の登場人物が多いが、中国人があのようにのべつ「調和」とか「陰陽」とか考えているのだろうか、というのがやや疑問。脳天気で無神経で有能な中国人刑事が老荘哲学について述べたりしているが・・・(笑)。

このシリーズの脇役では介護士のトムが楽しい。狷介なライムの世話を6週間以上続けられた介護士はいなかったのだが、忍耐強くなおかつ繊細な好青年トムは、優しく厳しくライムのケアをしているのだった(笑)。