本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

午前3時のルースター/垣根涼介

旅行会社勤務の長瀬に、中堅企業のオーナー社長から、孫の慎一郎のベトナムへの旅に個人的に添乗してくれないかという依頼がある。慎一郎の父親(社長の娘婿)は新規工場開発の為にベトナムで奔走していて行方不明になっているが、テレビのドキュメンタリーに父親が映っていることを発見した慎一郎が、父が何故家族の前から姿を消したのかを問いただしたいと思っているのである。

慎一郎は複雑な家庭環境を冷静な目で観察している怜悧で大人びた少年であり、慎一郎に妙に絆(ほだ)されてしまった長瀬だが、長瀬の変わり者の友人源内も同様で、若くして親の保険金が入って小金持ちである源内までベトナムに同行してしまう。

一癖も二癖もある長瀬と源内はお互いに認め合っているものの、小憎らしいことを言い合う仲でもあり、この友情もなかなか楽しい。ネオハードボイルド以降、腕っ節の立つ相棒というのがよく登場するが、源内も空手三段の腕前で、かつ高等遊民というあたりもネオハードボイルド的である。

父親が写っていたというドキュメンタリーを取材したスタッフから妨害があったことを聞いていた一行だが、ベトナムに入国すると、予約は取り消されているわ、おかしな輩に襲撃されるわ、やはりトラブルが待ちかまえている。長瀬は運転手とガイドを雇い、そしてベトナムでの活劇が始まるのだ。

妨害の出所の推測が付きやすいので、ミステリーとしては弱いと思うが、様々な組織と渡り合い、戦い、そして真相にたどり着こうとする長瀬たちの活躍が読ませる。慎一郎も健気だし、やはりこういう濃密な人間関係の描き方はいいなぁ。大傑作「ワイルド・ソウル」同様、スピード感あふれる展開とほろりとさせる人間関係とカタルシス、これが垣根作品の本領だと思う。