本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

街の灯/北村薫

戦前の東京を舞台にした連作ミステリで、富裕な家の活発なお嬢様探偵が活躍する。

お嬢様付きの運転手として新たに雇われたのは武術の達人かつ妙齢の美女の別宮(べっく)という女性で、お嬢様の読んでいた小説の主人公に因んでベッキーさんと呼ばれることになる。

彼女をお供に従え、回転の速いお嬢さんの推理が冴えるが、読みどころはやはり戦前の上流社会の生活や東京の雰囲気だろう。表題作では、ある上流家庭の令嬢の野心が語られるが、チャップリンの「街の灯」をモチーフにした最終場面がなんとも印象的だった。

ベッキーさんも曰くありげで、続編で彼女の謎が語られるのかと期待が高まる。

雰囲気的に、時と人の三部作「リセット」と重なる感じがある。「リセット」は戦前の神戸から現代に及ぶ切なく悲しく幸福な物語だったが、「街の灯」同様戦前の神戸のお嬢様社会を克明に描いて情緒があった。