本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

銀輪の覇者/斉藤純

昭和9年、東京でのオリンピック開催に向けて、自転車競技のアマチュア化が推し進められている時代に逆行するように、下関から青森までを駆け抜ける、賞金付きの大日本サイクルレースが開催される。

実用車のみという参加条件、食わせ者らしい主催者、元選手のベテラン、一攫千金を狙う素人、整然とチームを組む競技選手など、さまざまな思惑が入り乱れる中でレースはスタート。響木健吾という風変わりでニヒルな選手を主人公に、一時的にチームを組むことになった一癖ありげな面々の奮闘が、飛び散る汗や鼓動と共に熱く描かれる。

フランス留学中の失意や、父を絶望させた裏切り者への復讐などを胸に秘め、響木健吾は素人の集りであるチームを巧みに引っ張っていく。自転車競技の駆け引き、自転車そのものの魅力、仲間内の反目や共感など、さまざまな要素が絡み合って非常にスリリングで興奮させる面白さがある。そしてゴール前での死闘が何よりも感動的。戦うことの辛さと美しさを伝えている。

20年ほど前、「遙かなるセントラルパーク」というマラソン小説が話題になったが、その影響を受けているだろうか。自動車レースにも美はあるのだが、自力で進まなければならないマラソン競技だからこその感動もある。そしてそこに自転車のスピードが加わるのだから、更に興奮が高まろうというものだ。

明治から昭和初期まで、ロードのプロ自転車競技大会があったということも驚きだった。