自転車の旅と自衛隊内の謀略が交互に語られる、センチメンタルな傑作ロードミステリー。
狂気の自衛隊幹部によるクーデター計画の概要を記した印刷物が、偶然のことから桐沢風太郎(自転車で旅するフリーのグラフィックデザイナー)に拾われる。これを奪回すべく自衛隊法務官の尾形が追跡し、物語は二人の視点で交互に語られる。
桐沢には安保反対運動に参加した過去があり、革新政党の活動家だった伯父がいて、編集長賞を受賞したこともあるライターであると言ったような情報が収集されたから、とんでもない奴に拾われてしまったと自衛隊の監視班は色めき立つことになる。
旅の途上、桐沢は無銭旅行をする少年と知り合い、二人で競うように青森へ向かう。少年の成長と、彼を見守る桐沢の視線が爽やかではあるが、やや説教臭いような気もする。自由・硬派・男臭さを信条とするような人間に描かれている桐沢は、野田知佑や椎名誠系列の感じだ。やや古くさくも思うが、JR発足当時に44才という設定だから、現在なら65才か。いかにもそういう人間がいそうな世代だ(笑)。
それにしても、44才はすでに自分の過去の年齢だが、それくらいあっという間に経ってしまうのだなぁと、やや薄ら寒い(笑)。
偶然を装って桐沢に接近した尾形は、桐沢にわずかな友情を感じ始める。二人とも自立した人間であり、かつ風変わりで、大して言葉を交わした訳でもないのに通じ合うものがあったという訳である。クサいクサい(笑)。
謀略などのミステリー的興味、自転車の旅の爽快さ、友人への桐沢の思い、少年の成長、ハードボイルドな活劇など、さまざまな要素が詰め込まれた小説だ。数作の傑作を残してあっという間に世を去った著者の早世が残念。センチメンタルでユーモラスでマッチョな作風は、今時から考えればやや古くさくも思えるが、再読しても面白さは変わらない。