本・花・鳥(ほん・か・どり)

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虹の家のアリス/加納朋子

不思議の国のアリスになぞらえた謎解きミステリー「螺旋階段のアリス」続編。早期退職して探偵行を始めた仁木と、彼のもとにふいに現れた不思議な美少女との活躍を描いて好調だ。駒子シリーズの「スペース」を読んだ時にも感じたが、この作家、「優しさ」だけではなく、ほのかな悪意や善意の侮蔑みたいなものをからめるのが上手くなっていると思う。

「虹の家のアリス」市村安梨沙の後見人のような叔母篠原八重子は、昔気質の毅然とした老女であるが、自宅で近所の主婦に主婦としての作法を教えている。生徒の一人が運営している親子クラブに些細な嫌がらせが頻発しているのは何故か、という依頼を仁木はあっさり看破してみせるが、この後の安梨沙の推理が「技あり!」という感じだし、微笑ましい。ドメスティックな謎をうまく仕込んだものだ。

「牢の家のアリス」以前にベビーシッターの仕事をしたことがある青山産科医院から赤ん坊が消えた。しかもドア前には防災設備の業者がいたという密室である。不思議、可憐、天真爛漫の美少女に垣間見えるほのかな悪意がスパイスになっている。

「幻の家のアリス」安梨沙の家に向かった仁木は、安梨沙の養育係の女性から、安梨沙は何故自分によそよそしくなったのか突き止めてくれと依頼されてしまう。それぞれの目から見えた安梨沙像だけを実像と思い込み、真実の安梨沙を無視してきたつけが回ってきたというものだが、仁木自身の娘も登場し、家族という物について考えさせる一編である。

他の短編もトリックと創意に富んで、楽しめる一冊だった。