本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

つむじ風食堂の夜/吉田篤弘

主人公が引っ越してきた街の四つ辻にある、「つむじ風食堂」に集う風変わりな善人たちのエピソードを淡々と重ねた連作短編集。

派手なことは大して起こらないが、二重空間移動装置(実は万歩計)を売る帽子屋とか、夢見好きな果物屋若店主とか、人工降雨の研究をしている「雨降りの先生(主人公)」とかの、どうでもよくてハートウォーミングな話題が気持ちよく描かれている。

つむじ風食堂は定食屋だが、メニューだけはやけに重厚な作りで、「鯖の塩焼き」は「サヴァのグリル シシリアンソルト風味」などと書かれているようだ。何だか行ってみたくなるではないか(笑)。雨降りの先生の父親(奇術師)の手袋のエピソードもなんだか切なくて良いなあ。