本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

やがて目覚めない朝が来る/大島真寿美

かつては大女優であり、シングルマザーとなって数年後、突如引退してしまった蕗さん(矍鑠、飄々とした老女)を孫娘有加の目から綴った小説である。

蕗さんは有加の父方の祖母だが、有加の両親が離婚した後、母親と有加は何故か蕗さんと同居している。有加の母方の祖母はあまり目の出なかった女優だが、蕗さんの友人で、世間に隠した蕗さんの出産をサポートしていたのである。

題名からも推測されるとおり、蕗さんや、蕗さんに関わった個性的な人々の「死に方」を辿った物語でもある。決して大往生的な死に方ではなく、著者の「香港の甘い豆腐」「虹色天気雨」「ほどけるとける」のように筋立ての面白さがあるわけではないが、有加から見た目、有加を見る目、どちらも暖かく、淡々と読後感の良い小説。