昭和34年生まれの田村久雄が名古屋から上京し浪人生活を送り初めた1978年から、バブル期のコピーライターとし活躍している1989年までのある一日を取り出し、恋や成長を描いた連作青春小説。
自分とほぼ同年代の作者が関わってきた時代背景にはとても懐かしさを覚えるし、適度にお調子者で適度に誠実な久雄にも好感が持てる。弱小広告会社の業務に忙殺されているジョン・レノンの射殺事件の日、上京した日に東京をあてどなくさまよっている中で青雲の志を抱いたキャンディーズ解散コンサート、 身勝手でお節介焼きで善良な、二人の名古屋婦人によって見合いを強制された日のゴーストバスターズなど、懐かしいアイテムを散りばめてある。
著者の自伝的な要素でもあるのだろうか。だとすれば、初出が2000年頃だから著者が40才を超えたくらいに、30才までを振り返ってみた、という感じなのかもしれない。伊良部シリーズの強烈な馬鹿馬鹿しさは見あたらないが、センチメンタルでユーモラスな青春グラフィティである。