本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

あぽやん/新野剛志

あぽやんとは、空港でツアー客に発券したり、トラブルの処理をしたり、お見送りをしたりする担当者である(あぽとはairportの略)。ツアー客と現場で関わる重要な職務という感じがするが、旅行業界ではの第一線ではなく閑職扱いされているらしい。

本作は、上司にたてついて成田空港に配属された遠藤慶太を主人公に、名物あぽやんたちの行動をユーモラスに暖かく描いた連作集だ。最初は嫌々空港業務に入った遠藤だが、調子が良いだけに見えて何よりお客様のことを考えている今泉(バブル入社組)や、空港を我が家と考えている堀ノ内、普段は存在感がないのにいざというときに凄みを見せる空港所長など、伝説のあぽやんたちが軽やかにトラブルを処理していく様子を見て、徐々に成長していく。

「あぽやん」という言葉の持つ暖かさや軽さや優しさがこの物語の基調を説明している。「嫌々配属→伝説の男に感化される→成長する」というパターンはどこかで覚えがあるぞと思ったら、山本周五郎の「赤ひげ診療譚」だった。もしや影響を受けているだろうか。

子供の頃、「オルリー空港22時30分」という、児童向け空港サスペンスを愛読していた。世界中から人と物資が集い、また離れていく特殊な場所で、まだ少年と思しき年若い空港職員が、テロと誘拐の騒動に巻き込まれつつ子供を守ろうとする筋立てだったが、様々な人が行き交う小さな町である空港という設定が効果をもたらしていた。本書にも同じようなものを感じてその部分でも懐かしい。