本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ワーホリ任侠伝/ヴァシイ章絵

第1回 小説現代長編新人賞受賞作。出版社のコピーでは「普通のOLが踏み出した、愛と仁義のワーキングホリデー。」となっており、ちょっとたがの外れた若い女性がワーキングホリデー先で痛快な活躍をする、という先入観があったが、更にぶっ飛んでいる小説だった。

六本木でクラブ活動にいそしむイケイケOLのヒナコは、セクハラ勘違い上司のいる職場に嫌気が差しており、ワーキングホリデーの資金を稼ぐためにキャバクラで働くことに。そこに現れたリュウイチに惹きつけられていい仲になるが、リュウイチを巡る事情に巻き込まれ、ジェットコースターのごとき展開になる。

舞台はニュージーランドに移り、ここで新しい人生が開けるのかと思いきや、自分でデリヘル事務所を組織して手広く商売を始めたりしている。

ヒナコに同行した元ホストのニッキーの造形が良い。男からも女からも玩具にされてきたような儚い男で、何となくカリフォルニア物語(昭和50年代に好評を博した吉田秋生少女コミック連載作品)のイーブを思い起こさせるが、来し方に傷を持つニッキーとヒナコの共感が何とも愛おしい。

明るくポップなノワール小説の感もあるが、絶望が待っている訳ではない。うーむ、しかし思いこみとはだいぶ違う小説だった。