本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

つくもがみ貸します/畠中恵

古道具屋兼損料屋*1の出雲屋は、しとやかな外面と裏腹に勝気で強気のお紅と、道具を見る目は確かながらお紅に頭の上がらない弱気な清次の、義理の姉弟で営んでいるが、出雲屋に置かれている商売道具は、百年の時を経て妖となった付喪神が多く、店内では何やらごちゃごちゃと話し声が聞こえている。そして、商売の上で起こった謎や、お紅にまとわりつく行方不明者の悩みを解決するのに付喪神を貸し出して情報を拾ってくるわけである。

面白いのは、出雲屋姉弟付喪神の間には会話があってはならず、お互いの会話を立ち聞きすることによって意志の疎通を図っていることである。基本的に清次を軽視している付喪神たちは時折馬鹿にしたような口を聞くが、そういう時は清次が実力行使に出て道具を引っぱたいたりしている(笑)。

幾つかの事件が提示される連作仕立てだが、全体に関わる大きな問題は、蘇芳という香炉にまつわる謎である。同じ号を持つ大店の若旦那(道楽者)が勝手にお紅に入れあげ、親の用意した縁談を嫌って出奔しており、これがお紅にとっては喉に引っかかった魚の骨のようにいつまでも気にかかっているのだが・・・。

人気の「しゃばけ」と少し風合いの違った、それでもやはりユーモラスで楽しい時代ファンタジーである。

*1:損料屋とは江戸のレンタルショップ