作家のアレクサンドル・デュマ家三代を描いた三部作の最終巻。
フランス貴族と植民地奴隷の間に生まれ、ナポレオン麾下の将軍として名を馳せたデュマ将軍の生涯を描いたのが「黒い悪魔」、陽気で無邪気で自己中心的で自分好きの快男児作家アレクサンドル・デュマを描いたのが「褐色の文豪」であり、本作は、「椿姫」で有名な小デュマが己の来し方をグチグチと(ユーモラスに)語っている。
私生児の生まれであることを嘆き、放埒な父親に反発し、自分はああはならないぞと考えているデュマ・フィスであるが、若い頃は放蕩三昧で(この生活が椿姫のベースとなる)、中年までは思慮深く落ち着いていたように見える。自己中心的で気の良い父親デュマ・ペールに対して批判的だったはずなのに、老年に差し掛かってから父親と同じように若い女性と恋に落ちたりして、これを荒ぶるアフリカの血のせいとしている。自分も父親と大して変わらなかったと述懐しているのだ。やはり波乱万丈の生き方がこの三代の宿命なのかもしれないが、おいおいそれはちょっと無責任だろうと思う。あまり賢者には感じられないんだがなぁ・・・(笑)。
佐藤賢一はこのところ作風がぐっと変わってきているように思う。初期の「傭兵ピエール」「王妃の離婚」「双頭の鷲」のような、西洋史を舞台にして時代小説を書いているような面白さは影を潜め、史実に忠実だったり、あるいは突飛すぎるような寓話的な物語を作ることが多くなっている(本書もその延長である)。それはそれでアリだと思うが、初期作品のような痛快な物語も読みたいなぁと思うのであった。