本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

[鬼振袖 国芳一門浮世絵草紙3/河治和香 

「侠風むすめ」「あだ惚れ」に続く、鬼才浮世絵画家歌川国芳の娘・登鯉(一燕斎芳鳥)の青春を描く時代小説シリーズの第三弾である。

このシリーズは登鯉の青春の焦燥を情緒的かつユーモラスに綴って読ませるが、19才になった登鯉には嫁き遅れを心配する周囲(特に国芳)の目がわずらわしく、また、振り袖が似合わなくなってきた自分にも焦りを感じている。

初めての男やらかつて登鯉と恋仲だった男やらがちらちらと目の前で騒動を起こし、悩みは深まるばかりだが、登鯉の一途で強気な江戸娘ぶりはやはり魅力だ。

国芳も相変わらず脳天気で反骨で、ローマの休日的に国芳宅へころがりこんだ幼い尾張藩主との楽しいやりとりが切ない。若くして亡くなった徳川慶臧の墓に国芳作品が多数埋葬されていたことからの着想らしいが、切なく心温まる物語を組み上げている。

やや老残の気味のある北斎娘お栄とは相変わらず屋根の上で火事見物をしていて、お栄に我が身を重ね合わせたりもする。仙人になりたいと考えていたお栄の偏屈ぶりが飄々として楽しく、またしみじみ感もひとしおな一編だ。

この先、登鯉がどうなっていくのか、これからの作品も興味が尽きない。


ところで、この作家は同年代だが、宇江佐真理作品に違和感を持つようになった昨今、一番期待する女性時代小説家になってしまった。