本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

踊る陰陽師 山科卿醒笑譚/岩井三四二

室町、安土桃山にかけての庶民の苦労やしたたかさを描くのが岩井作品の特色だが、今回も、「父と兄が死亡し、急遽、家を継いだものの客が付かない陰陽師」「曲舞(くせまい)の芸人娘に無理難題を言われる座元」「故郷の村の急場を何となしなければならない雑色(ぞうしき)」「美貌の妻を置いていくのが心配で、遠国への使者を逃れたい公家の家来」「転職を考えている下級武士」など、のっぴきならない羽目に陥っている庶民のじたばたぶりを面白おかしく描いている。

狂言回しとして山科言継卿と青侍の大沢掃部介が登場しており、困り果てた連中がトラブルの解決を持ち込むことになるのだが、言継卿はノホホンオットリとしつつ計算高く、掃部介は粗野でいい加減と、あまり役には立たない主従である(笑)。それでもなにがしかの解決を見る主人公たちだが、結局、苦難は後にも続くことになる。

何しろ「踊る陰陽師」というタイトルが良い。胡散臭くドタバタした物語を想像させるこのタイトルが好奇心をかき立てるのだから、タイトルだけで半ば成功したようなものだ(笑)。