本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

夜叉桜/あさのあつこ

人気児童文学シリーズ「バッテリー」でブレイクした著者初の時代小説「弥勒の月」の続編。有能でニヒルで冷酷で残虐で、そのくせ妙な愛嬌がある八丁堀同心・木暮信次郎が遊女連続殺人の謎を解く時代ハードボイルドと言ったところだろうか。

信次郎の他にも、実直で老練な岡っ引き・伊佐治(無事平穏な暮らしに倦んでいるところを信次郎に見破られている。小言が過ぎて、信次郎が本気で刀の鯉口を切りかけたこともある(笑))や、かつて父親の暗殺の道具に使われていたという暗い過去を持つ、やり手の小間物問屋・遠野屋清之介など、一癖も二癖もある登場人物たちが、お互いの傷を抉りつつ、妙な共感を見出したりするやりとりが本書の魅力である。

ただ、個性を描くために、耽美的な文体で説明しすぎているきらいが感じられて惜しい。饒舌な文章より、簡潔な行動で個性を語れば良いのにと思う。遊女が殺されるに至る事情や、遠野屋にからむ過去の因縁などは抒情的だったりスリリングだったりで非常に読ませる。遠野屋のしがらみが決着していない以上、続編があるんだろうなぁ。冷徹さと詩情がほどよく同居している点でハードボイルドらしい作品となっている。