本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

赤と青とエスキース/青山美智子

一枚の絵とともに流れる時間を描いた連作長編。


オーストラリアに交換留学生としてやってきたレイは留学先に馴染めず、鬱々と暮らしている。ある日、アルバイト先の先輩(ワーホリで来ている日本人女性)に誘われてバーベキューに参加したレイは、移住した日本人両親を持つブーと知り合う。


陽気なブーが一瞬見せた不安な表情に却って興味を持ったレイは、帰国までの期限付きという条件でブーと交際し始める。そして別れの日が近づいた頃、ブーの友人である駈け出し画家ジャック・ジョンソンのモデルとなったレイ。別離の悲しみを持つ二人の気持ちを情感豊かに描いて第一編は終了。


そして「エスキース」と名付けられたこの絵と共に時間は流れる。二作目ではジャック・ジョンソンは人気画家となっており、エスキースの額装をすることになった額縁職人が主人公に。エスキースへの思い入れが丹念に描かれている。


エスキースの飾られた喫茶店で対談することになった漫画家師弟が三作目。風貌と相まって人気上昇だが寡黙な弟子に対し、やや軽佻浮薄な師匠がいい感じを出している。


四作目は、輸入雑貨店に勤める中年女性の体調不良と、別れた恋人に関するストーリーで、和やかな読後感。そして最後にジャック・ジョンソンが30年の時間を語る。なんてまぁ仕掛けの多い物語だったんだろう。そう来たか!やられた!って感じだが、すべてが丸く収まって気持ちのいい小説だった。