本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

少年と犬/馳星周

第163回直木賞受賞作。ノワール小説が本領の著作は読んだことがないが、本作のタイトルからして少年と犬の交流を描いていると思われ、手を出してみた。


シェパードと和犬の雑種と思われる、賢く誇り高い旅する犬を狂言回しにした連作で、少年はなかなか出てこない。当初登場するのは、東日本大震災からさほど経っていない被災地でヤバい仕事の下請けをするドライバーである。男には若年性認知症の母親がいて、姉に面倒を見て貰っており、介護費用を稼ぐために必死なのだ。コンビニ前で腹を空かせた犬(首輪に多聞とある)を拾った男は、賢さにほだされるし、母親にとってもいい影響を及ぼすと思われたが、強盗仕事のドライバーを務めた末に・・・。


賢い犬は次に外国人強盗犯に飼われるが、強盗犯の行く末も幸せではない。どうも不幸を招き寄せる犬のように思えるし、この辺がさすがに著者の作品かも。


その後、商売をほったらかしてスポーツにうつつを抜かす亭主とすっかり愛想を尽かしている妻や、薄幸の娼婦や、孤高で狷介な漁師のもとを点々とし、それぞれに癒やしをもたらしてきた犬は最後に熊本に移住した家族に拾われる。東日本大震災の被災地で子供が心を閉ざして海をこわがるようになったために移住した家族である。息子は言葉を発しなくなり、日がな何かの絵を描いているような状態だったが、多聞に出会うと徐々に心を開いていくように。ここでぐんと感動が訪れる。何と言うあざとい仕掛けであろうか。更に第二、第三の感動の罠を儲けており、うーん、あざと過ぎるぞこれはと思うのだが、確かに良い作品であった。