本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

犬がいた季節/伊吹有喜

三重県内の進学校である八陵高校(ハチコウ)に迷い込んで飼われることになった犬コーシローが見つめてきた高校生たちを描く青春小説。昭和の終わりから二十世紀の終わり(コーシローの生涯と重なる)までの時代が綴られている。


コーシローを最初に保護したのは美術部で(美術美は真剣な部員と帰宅部が入り交じる)、帰宅部員の塩見優花と真剣部員の早瀬光司郎(コーシローの名付けのもと)のほのかな恋愛が描かれるが、これが初々しくて何とも切ない。


人間の言葉を解し始めたコーシローは嗅覚も働かせて高校生たちの感情を読み取るが、そのくだりがユーモラスでほのぼのとして秀逸。


早瀬は孤高で狷介だし、優花の家族は決して優しくて理解のある人間ばかりではないし、いい人だけが出てくる訳ではないが、その辺が却って物語に深みを与えているかも。


30年後の後日談ですべての物語が収斂され、良かったなぁと思わされる結末。