本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

傲慢と善良/辻村深月

ストーカーの恐怖を訴えていた婚約者が失踪という出だしで、いかにもそういうミステリーかと思いきや話はあっちこっちへ転がり、婚活における傲慢さと善良さについてページの多くが割かれている。


小さな輸入ビール会社を営む西澤架(40才)は外見も経歴もイケてるし、若い頃から彼女を切らしたことがなかったが、いちばんと思っていた彼女に結婚について聞かれた時に躊躇してしまい、彼女と別れる羽目に。年を取るにつれ出会いも減り、婚活で知り合った真実とそこそこの恋愛をしていたが、彼女が失踪。ストーカーの手がかりを求めて彼女の過去を探っていく。


真実は前橋の出身、地元でそこそこのお嬢様学校を出てそこそこの職場に就職したが、30才で東京に出てきている。ここで語られるのが真実を束縛し、娘の生涯をすべて決めてきた親(特に母親)の傲慢さで、娘の幸せのためと信じているところが更に不気味。


真実の婚活について多く語られ、また架の婚活観も大いに開陳されて、一体どこから謎解きになるんだよと思っていたら・・・(以下略)。


ミステリーとして読むと期待外れだが、恋愛小説、または婚活小説として読むのがいいのだろう。いちばん傲慢だったのは真実をねちねちといじめる架の女友達で、イケてる男友達を取られるのが嫌さだったんだろうが、反吐が出るほどのいやらしさ。こういうの書かせると上手いなぁ。タイトルがオースティンの「自負と偏見」に似ているなと思ったら作中で言及されていた。こちらも西洋の婚活小説というべきか。