本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

旅する練習/乗代雄介

以前の芥川賞候補になった作品である。まずタイトルが奇抜。旅をするための練習なのか、練習が旅をしているのかと、本書の情報に接したときに思ったが、後者であった。


小学校を卒業したばかりで私立中学への入学が決まっている少女、亜美(アビと読む)は、小生意気で活発で利発なサッカー少女である。以前に行った合宿所の本を持ってきてしまったということで、コロナ禍の初期の頃、臨時休校で暇になったのを機に、小説家の叔父と共に返却の旅に出る。


これが風変わりな旅で、合宿所のある鹿島まで徒歩で行動、亜美はドリブルやリフティングをしながら、語り手の叔父は目にするものを描写しなばらという、それぞれの練習が伴う旅となる。一種のロードノベルである。


叔父の小説家は鳥好きらしく、折々に野鳥が登場するのは鳥好きとして興味深いし、亜美と叔父のやりとりもほのぼのと楽しい。途中で知り合った新卒の女性と行動を共にしたり別れたり、旅ならではの面白さもある。ただ、やたらと思索描写が多いのはやはり純文学だからだろうか。エンタメ小説ならひたすら行動の面白さを描写するだろう。




この後、詳細な内容には触れていませんがややネタばらしありです。ご注意ください。















ただし!最後の1ページで何だこの結末はとなる。この方が余韻が深まるとでも言うのだろうか。だからこそ文学なのかもしれないが、愕然とした。