ピアノにもクラシックにも興味のなかった高校生が、調律された学校のピアノの音色に魅了され、調律師を目指して成長していく物語。
主人公外村は北海道の自然の中で育ち、様々な音を聞いて育ったため感性が豊か。調律の腕こそ発展途上だが、音色の繊細さを聞き取ることが出来る。このあたりの描写が美しい。
外村が魅了された調律をしたのは板鳥さんと言う先輩で、世界的なピアニストが指名するほどの調律師である。そんな調律師が学校ピアノの調律に来るかしらんと言う疑問がなくもないが、まぁとにかく凄腕なのだ。身近な先輩の柳さんや、皮肉屋の秋野さんなど、脇役達がなかなか個性的だ。
全体に音楽の喜びに溢れている。双子の高校生ピアニストの音色の描写もそうで、才能開花の場面がナイス。自分は個々の演奏者の個性や精神性などを聞き分ける耳を持たないが、そういう描写が何とも心地いいのだ。調律によってピアノの音色は大きく変わるものらしい。その繊細さを描いて何とも読後感の良い音楽小説となっている。
