本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

風に舞いあがるビニールシート/森絵都

著者の作品は何作か読んでいて、どれも読後に元気が出てくるようなユーモラスなものだと思っていたが、本作は短編集で、なかなか多彩な語り口である。印象に残ったのは「守護神」「ジェネレーションX」表題作の「風に舞いあがるビニールシート」。


「守護神」苦労して大学二部に通う主人公は、論文の作成が間に合わず、学内で都市伝説のように語られるニシナミユキ(困っている学生の論文の代作をしてくれる)の助けを得ようと、なんとかして彼女に渡りを付けるが、けんもほろろの扱い。一年後、更に彼女の助けを求めて再びの面会を試みるが、彼女の助言によって己を振り返り、自分が何を求めていたのかを覚らされる。一種の克己の物語?


「ジェネレーションX」通販カタログ会社で商品ミスがあり、消費者に謝罪に出向くことになった担当者二人の珍道中を描いている。穏健で平凡であることが信条の通販会社社員(中年)に対し、メーカー側の担当者は軽薄な若者で、最初は苦々しく思っていた中年が若者の意外な真摯さを知り、心を通わせていく行く立てがなかなかに楽しい。結末のオチも効いている。


風に舞いあがるビニールシート国連難民高等弁務官事務所に勤めるアメリカ人と日本人の元夫婦。安定した家庭生活を求めた里佳に対し、夫エドはフィールドで激務に就くことを考えており、すれ違った二人は愛し合ったまま離婚。しかしエドが紛争地で殉職し、里佳はうちひしがれているが、エドの殉職の真相を知るジャーナリストとの面会で真実を知り、悲惨だったエドの生涯に少しだけ慰めを見出し、立ち直っていく。悲しみと再生の物語。