本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

二百十番館へようこそ/加納朋子

就活に失敗し、ネトゲ廃人自宅警備員となっていた刹那(オンラインゲームでのHN)は、親に見捨てられ、島流しの憂き目に。付き合いのなかった伯父の残した遺産として離島にある建物を相続して住み込む羽目になったのだ。企業の研修センターとして建てられたものだが、現在は空き家であり、資産価値のない負動産でもある。


親に縁を切られ、初期の雑費だけ持たされて送り込まれた刹那はない知恵を絞り、自分と似たような境遇の人間を住まわせて費用を負担して貰うことを思い付く。そしてやって来たのが、日本の最高学府を卒業しているもののコミュ障で、アルバイトの面接にさえ受からないヒロだった。ヒロを得意のゲームに引き入れ、面倒を見てやってどうにかこうにか二百十番館(ニートの館の意)での共同生活が始まるのだった。


現実世界ではダメ人間の刹那だが、オンラインゲーム内では頼れる兄貴キャラとして通っている。これは、こうありたい自分の反映であると刹那を見守る者が喝破しており、その通りに、現実世界での様々なミッションをクリアしながら徐々に成長していくのだ。


患者が死亡したことで心が折れた医者やら、大学のクラブ内でハブられて人間不信になっているマッチョやら、似たような人間が集うが、彼らも少しずつ成長し、再生していく。ダメなだけではなかった若者たちの再生がほのぼのさせる、ハートウォーミングな小説。


様々な伏線があり、それを最後に解き明かしているのもさすがミステリー作家だ。