本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

四角い光の連なりが/越谷オサム

読書網友の書評ブログで読んでみようと思った本。鉄道をモチーフにした五篇の短編からなっているが、連作ではなく、それぞれが独立した作品である。どの作品もほのぼのだったりユーモラスだったりノスタルジックだったりで、読後感の良いものばかりだった。


特に好きだったのは


「タイガースはとっても強いんだ」熱烈なタイガーファンで、タイガースを勝たせるために様々なジンクス(自分のルーティン)を持つ青年が、気になる同僚女性をタイガース戦に誘った日、色々と番狂わせの出来事が起こってドタバタしながら彼女の待つ甲子園へ向かう。幼少時にポーランドにいたせいで語学が出来、行き先に迷っているポーランド人夫婦を(ジンクスを破るので散々迷った末に)助けるくだりがいいし、後日談もしみじみと楽しい。


「名島橋貨物列車クラブ」幼なじみと共に貨物列車を見るのが楽しみであることを卒業文集に優等生風の文章を書いた小学生。しかし短い文章は自分の真意ではないということで、卒業文章と同じ優等生風の文体で本音を長々と書き連ねているのが面白い。発達障害と思しき幼なじみとの行動は時に面倒くさいと思っているが、そういう子の面倒を見る地位にいるのが実は誇らしいとか、正直な本音が書かれていたり、憧れる女子のことを書き連ねていたり、他人に見られたら赤面するような文章を綴る小学生が微笑ましい(笑)。


「海を渡れば」中堅の真打ち落語家が師匠に入門した頃からを長いまくらで語っている。理不尽な先輩のいじめに耐えかねて逃げ出したことも語り(「海を渡れば」とは、夜行のサンライズ瀬戸に乗って故郷に逃げ帰ること)、師匠の機転の利いた温情で戻ることが出来たことなど、ユーモラスな人情噺となっていてこれも読ませた。落語のリズムで上手い調子で運んでいるし、著者は落語好きなんだろうな。