本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

虹の岬の喫茶店/森沢明夫

辺鄙な岬にある喫茶店を舞台にした連作長編。


登場するのは、妻に早世され、四歳の娘と共に虹探しの冒険ドライブに出た父親とか、就活に悩む大学生とか、それぞれ虹の岬の喫茶店に辿り着いて、初老ながら毅然とした店主、悦子さんに癒されたり励まされたりして自分の道に踏み出していく。


正直なところ、当初の数編は、面白いけど何か乗り切れないなと思っていたが、悦子さんに恋心を頂く初老男とか、悦子さんの甥でこわもての浩司がかつて喧嘩別れしたバンド仲間を思う一篇とか、段々に感傷味が増してきて、その結末がなかなかにしんみりさせるものだった。


亡き夫の描いた虹の絵を店に飾り、同じような景色を見ることを夢見ている悦子さんの造形も良い。優しくて毅然として強く、その存在感が際立っている。


この設定、確か吉永小百合の映画にあったんじゃないかと思って検索してみたら、やっぱり「ふしぎな岬の物語」というタイトルで映画化されていたのだった。