本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

SF・ファンタジー

カンタン刑

式貴士は、80年代にシュールでグロテスクで奇抜でセンチメンタルな、優れたSF短編を発表していた作家で、90年代になってからは名前を聞かなくなっていましたが、このほど光文社文庫の新刊に収録されました(内容は新編集のようです)。もう20年ほど前に読ん…

変身/嶽本野ばら

どうしようもない不細工男がある朝目覚めたら二枚目に変身していて・・・、という物語。。 親からさえ愛想を尽かされるような不細工男・星沢皇児は、「風と木の詩/竹宮惠子」で美に目覚め、アナクロで耽美的な、ほとんど相手にされない少女漫画を路上で売り…

アナンシの血脈(上・下)/ニール・ゲイマン 

不器用で冴えない大男ファット・チャーリーには普段疎遠にしている父親がいる。この、愉快でおしゃれで女好きで傍迷惑な道楽者の父親が亡くなったという知らせがあり、葬儀に赴くと(ここですでにファット・チャーリーは大間抜けさを披露してくれる)、昔の…

産霊山秘録/半村良

ハルキ文庫から出ていたものを二十数年ぶりに再読。雰囲気に古くささは感じるものの、やはり飛び切り奇想天外で面白かった。古代、天皇より上に位置し、特異な能力を誇ったヒ一族の末裔は、朝廷と世の中の平和を希求する勅忍となっており、乱世を収めるのは…

金春屋ゴメス 異人村阿片奇譚 /西條奈加

「芥子の花 金春屋ゴメス」改題。近未来の日本(北関東地方)に独立国として存在する「江戸」を舞台に、非道・冷酷・暴力の噂が絶えない女傑・ゴメス親分(馬込寿々(マゴメスズを略してゴメス)率いる長崎奉行所(裏金春)が活躍するバーチャル時代小説。前…

トマシーナ/ポール・ギャリコ

スコットランドの田園を舞台にした、獣医と愛娘とその愛猫を巡る心優しい物語。一応ファンタジーとなっているが、スーパーナチュラルな要素は少しだけだ。アンドリューイ・マクデューイ氏は、医師になりなかったのに父親に家業の獣医を継がされ、人間的にね…

アメリカ第二次南北戦争/佐藤賢一

西洋史を舞台に、戦国時代小説的な歴史物を発表してきた著者による近未来ポリティカルフィクション。2013年、アメリカ合衆国で南北に別れた内乱が勃発する。テキサス州ダラスで女性大統領が暗殺され、副大統領から昇格したアフリカ系アメリカ人ムーアが…

時の“風”に吹かれて/梶尾真治

カジシンお家芸の時間物、ドタバタ、ホラー、ショートショートなど、さまざまな作品が詰め込まれた短篇集。あちこちに発表した物を再編集したらしく、作風がバラバラだが、だからこそこの作家の多才さが浮かび上がった気がする。以下、印象に残った何編か。…

殺生石/富樫倫太郎

幕末の蝦夷を舞台に、魔物の力を得ようとする怪人たちと、これに対する陰陽師、蝦夷政府の面々等の戦いを描く、時代ファンタジー。フランスから江戸幕府に派遣された士官に化けているサンジェルマン伯爵は、2800年を生き続ける魔人であり、日本にソロモ…

嘆きのサイレン/茅田砂胡

美貌で豪快でエネルギッシュで傲慢で有能な戦士であるクーア財閥令嬢と、ヘラヘラしていて侠気があって正義漢でこちらもメチャクチャ強い宇宙海賊ケリーの活躍を描いた「スカーレット・ウィザード」、仮想中世ヨーロッパ風世界を舞台にした戦国時代ファンタ…

柳生雨月抄/荒山徹 

霊能があり、さらに宗家柳生宗矩を凌ぐほどの腕前でもある、京都の陰陽師家に養子に入った柳生友景を主人公に、朝鮮の妖術師との戦いをおどろおどろしく描いた時代伝奇。友景は以前の荒山作品にも登場しているが、その時には十代で美貌でサイキックで剣の達…

安徳天皇漂海記/宇月原晴明

壇ノ浦の波の下に沈んだ安徳天皇は、神器である真床追衾(まとこおうふすま)に守られ眠り続けているという設定で、著者お得意の耽美的なホラーを展開させた時代伝奇小説である。第一部は、鎌倉幕府三代将軍実朝の側近が語る、安徳と実朝の因縁。幼くして海…

エンド・ゲーム/恩田陸

特異な能力を持つが故に権力に利用されることを恐れ、ひっそりと暮らしてきた常野一族を描く常野物語シリーズの第三弾。しかし第一部の「光の帝国」とはだいぶ趣が変わっていて、今回はインナースペースを舞台にしたサイコホラーの感触。敵である「あれ」と…

金春屋ゴメス/西條 奈加

第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。近未来の北関東の一画に、国として独立したバーチャルな江戸があるという設定で、江戸から日本へ脱出した父親の求めに応じ、幼い頃の記憶を取り戻すために江戸入りした青年・辰次郎を主人公にしている。江戸は元…

お師匠さまは魔物!/ロバート・アスプリン

ふざけて幼稚なタイトル、漫画のような表紙からやや敬遠していたが、面白いという評判もあるので手を出してみた。ドタバタファンタジーである。うだつの上がらない魔法使いの弟子スキーヴ(泥棒に役立てようと目論んで魔術を学んでいる)に、師匠ガルキンが…

わくらば日記/朱川湊人

不思議な能力を持つ姉と過ごした昭和30年代の下町の日々を、年老いた妹が回想して語るノスタルジック・ファンタジー。妙に上品な女子学生風の語り口は「リセット/北村薫」を思わせる。活発だった主人公ワッコの姉・鈴音は病弱な美少女で、気持ちも優しく…

おまけのこ/畠中恵 

回船問屋長崎屋の病弱な若旦那・一太郎を主人公に、妖との奇妙な事件を綴るユーモア時代ファンタジーシリーズ第4弾。情緒のある逸品が揃っている。「こわい」出生が定かでない、嫌われ者の妖・狐者異(こわい)が長崎屋に現れ、自分の頼み事を聞いてくれた…

ぼくのキャノン/池上永一

沖縄の風土や伝承をテーマにしてユーモアファンタジーを描く池上永一の作品が好きだ。「ぼくのキャノン」は当初タイトルからカメラエッセイかと思ってしまったが、今までの作品同様、やはり楽しく切ないファンタジーだった。本の雑誌の今年のベスト10にも…

アラビアの夜の種族/古川日出男

古川日出男のSF大賞受賞作。二段組み569ページ、へとへとになる大冊だ(笑)。物語は三重になっている複雑な構造で、冒頭、この本はエジプトの伝説の英訳版をテキストに著者が和訳したものであるという前書きがあるが、恐らくここからが創作なんだろう。…

文学刑事サーズデイ・ネクスト1 ジェイン・エアを探せ!/ジャスパー・フォード

クリミア戦争が130年以上続いているバーチャルなイギリスを舞台にしたSFミステリで、文学刑事局の女性捜査官が主人公。主人公が所属するスペックオプス(特別捜査機関、略称SO)の中には、時間警備隊、吸血鬼・狼人間処分局などと並んで文学刑事局が…

薄紅天女/荻原規子

日本神話や古代史をモチーフに健気な少年少女を描くファンタジーシリーズ、勾玉三部作(「空色勾玉」「白鳥異伝」)の掉尾。平安時代、坂東の竹芝を治める長の息子及びその甥で、同年の藤太(とうた)と阿高(あたか)は、精神的に強く結びついたおり、二連…

よろず春夏冬中(あきないちゅう)/長野まゆみ

日常にぽっかりと開くミステリーゾーンや、人間関係の奇妙さを描くファンタジー・ショートショートだが、ボーイズラブっぽい話がやたらと多く、この作家の得意技だろうかと思った(笑)。怖くて切ないファンタジーや、さらりと美しく爽やかなボーイズなど、…

ねこのばば/畠中恵

「しゃばけ」「ぬしさまへ」に続く、軽妙な時代ファンタジーの三作目。第一作の「しゃばけ」は第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。「しゃばけ」は長編だが、二作目、三作目は連作になっている。回船問屋長崎屋の若旦那一太郎は幼い頃から病弱…

デルフィニア戦記/茅田砂胡

茅田砂胡(かやだ すなこ)にはまっている。網友のレコメンドで読み始めたデルフィニア戦記シリーズは、カバーは少女漫画風でジュニア向けの体裁だが、中味は中世ヨーロッパ風仮想戦国ファンタジーという感じで、大興奮のシリーズだった。悪辣な臣下の陰謀で…