本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

おまけのこ/畠中恵 

回船問屋長崎屋の病弱な若旦那・一太郎を主人公に、妖との奇妙な事件を綴るユーモア時代ファンタジーシリーズ第4弾。情緒のある逸品が揃っている。

「こわい」出生が定かでない、嫌われ者の妖・狐者異(こわい)が長崎屋に現れ、自分の頼み事を聞いてくれたら、職人の腕が良くなる秘薬をやるという。菓子作りの腕が上がらない幼なじみ・栄吉のために秘薬が気になった一太郎だが、栄吉は、そんな薬には頼りないときっぱりと断ってみせる。友情の発露だ(笑)。関わるものを不幸に陥れる狐異者は、仏様でも救えないと言われている妖で、その孤独が哀切だ。現代の社会に受け入れられない半端者の姿を思わせる。

「畳紙」長崎屋に出入りする妙齢のお雛は、厚化粧によって仮面を作らなければ人と向き合えない性格だが、屏風のぞきとのおかしな縁がカウンセリングになるという不思議な一編。厳しい祖父母の思いやりが表される行く立てが楽しく、またしみじみとする。

「動く陰」一太郎が幼い時に解決した影女の事件。商家の中の人間関係のトラブルと重ね合わせられる怪異が、京極風を思わせる。

「ありんすこく」一太郎が禿(かむろ)の足抜けを助けることになる人情譚。

「おまけのこ」娘の嫁入り道具に高価な真珠を使った櫛をあつらえたい大店の主が、長崎屋に真珠を発注するが、真珠の盗難事件が起き、現場から真珠と共に鳴家(やなり)の一匹が消え失せる。鳴家は真珠をお月様と思いこんでおり、魅了されてしまっているのだ。鳴家の冒険が描かれて、何とも健気で可憐で意地らしい。鳴家ファンが多いというのも分かる気がする。