本・花・鳥(ほん・か・どり)

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アナンシの血脈(上・下)/ニール・ゲイマン 

不器用で冴えない大男ファット・チャーリーには普段疎遠にしている父親がいる。この、愉快でおしゃれで女好きで傍迷惑な道楽者の父親が亡くなったという知らせがあり、葬儀に赴くと(ここですでにファット・チャーリーは大間抜けさを披露してくれる)、昔の知人である老婦人から「あんたの父親はアナンシというアフリカの神様なんだ」ととんでもないことを告知されてしまう。

では、神様の息子であるはずのファット・チャーリーはなぜ冴えない間抜け男なのかというと、神様的部分はきょうだいのスパイダーが持っていってしまったということなのだ。

そして、まじないできょうだいを呼び出してみると、結婚まで純潔を守ると宣言していた婚約者を寝取られるわ、勤務先では社長の汚職の濡れ衣を着せられてしまうわ、踏んだり蹴ったりの目に遭うのであった(笑)。

一度は恨みからスパイダーを消そうとしたチャーリーだが、スパイダーの正体を知り、きょうだいの絆があることを確認すると、アナンシの敵と対決することになる。決してスーパーマンではなく、ちょっと歌が上手いファット・チャーリーとして。

このあたりが物語の見せ場でぐっと来る。父親の象徴であるフェドーラ帽をかぶるシーンも感動的。かっこ良すぎる父親アナンシを、登場人物の一人がキャブ・キャロウェイみたいと評しているが、自分的にはコンパイ・セグンドだなぁ・・・(笑)。

アナンシとは蜘蛛の神様で、いたずら者のトリックスターらしいのだが、父アナンシやスパイダーのキャラクターもそのままである。ひとり律儀なファット・チャーリーが気の毒だが、この律儀さこそファット・チャーリーの真骨頂だ。泣きっ面に蜂の状態でも、事態を解決せんがために前進していくチャーリーに、つい声援を送りたくなる傑作ファンタジー