壇ノ浦の波の下に沈んだ安徳天皇は、神器である真床追衾(まとこおうふすま)に守られ眠り続けているという設定で、著者お得意の耽美的なホラーを展開させた時代伝奇小説である。
第一部は、鎌倉幕府三代将軍実朝の側近が語る、安徳と実朝の因縁。幼くして海に沈められた怨みを抱き続けて瞋恚をたぎらせている安徳は「わが兵(つわもの)になれ」と実朝の夢の中でささやき、実朝は、この怒りに魅了されてしまっている。そうして、高丘親王の故事に倣い、怒りの鎮めどころを探す旅を計画する・・・。眠り続ける安徳が無邪気でいたいけでなんとも恐い。
第二部は、クビライ・カーンの巡遣使であるマルコ・ポーロが体験する不思議の旅。平家物語がカーンの御前で語られ、モンゴル語に訳され、それが現代日本語に置き換えられるという、何とも不思議な感覚が気持ちよい。
逃亡政権である南宋の少年皇帝のもとに安徳の眠る蜜色の繭玉が現れ、二人は夢の中で友情を結ぶ。あまりにも似通った悲しい境遇の二人を上手く結びつけたものだ。
怒りを解く地を求めて安徳の漂海は続く。ラストシーンの、何とおどろおどろしく耽美的で幻想的で豊饒で悲しいことだろう。このシーンにすべての物語が集約されていたのだなぁと思う。ホラーな物語に慕情とかリリシズムを折り込むのが上手い作家である。