本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

SF・ファンタジー

闇の守り人/上橋菜穂子 

中世的な世界において、凄腕の短槍使いである女用心棒バルサの活躍を描く児童ファンタジー「守り人シリーズ」の第二弾である。(第一作は精霊の守り人)バルサの父カルナは、カルバン王国で王の主治医を務める名医であったが、王弟ログサムの王位簒奪の陰謀…

つくもがみ貸します/畠中恵

古道具屋兼損料屋*1の出雲屋は、しとやかな外面と裏腹に勝気で強気のお紅と、道具を見る目は確かながらお紅に頭の上がらない弱気な清次の、義理の姉弟で営んでいるが、出雲屋に置かれている商売道具は、百年の時を経て妖となった付喪神が多く、店内では何や…

精霊の守り人/上橋菜穂子

大ヒットした児童向けファンタジーシリーズの第一巻であるが、とても子供向けとは思えない、重厚な物語である。腕が立つ女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを道すがらに助けたことから皇家のゴタゴタに巻き込まれる。二百年前に始まる新ヨゴ皇…

からりからくさ/梨木香歩

優しくて賢くて妹思いの姉のような、意志を持つ人形をモチーフにしたファンタジーhttp://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20101015/p1=「りかさん」では少女だったようこが長じてからの物語である。蓉子の祖母がなくなり、祖母の家を女子学生に貸し間する…

りかさん/梨木香歩

日本的な情緒にあふれた児童向けファンタジーである。主人公のようこは一人で祖母の家へバスに乗っていけるようになったくらいだから、小学校の二年か三年くらいだろうか。祖母に「リカちゃん人形が欲しい」とお願いしたのに送られてきたのは「りか」という…

帰還 ゲド戦記4/アーシュラ・K・ル=グウィン

帰還―ゲド戦記〈4〉 (岩波少年文庫)作者: アーシュラ・K.ル=グウィン,マーガレット・チョドス=アーヴィン,Ursula K. Le Guin,清水真砂子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/02/17メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 3回この商品を含むブログ (9件) を…

西遊記(上・下)/太田辰夫・鳥居久靖訳 

西遊記は子供の頃から大好きで、この翻訳版もおそらく5〜6度目かの再読である。他の翻訳(岩波文庫の中野美代子訳、現代教養文庫の村上知行訳)、平岩弓枝の翻案なども読んだが、やはりこの平凡社版の太田・鳥居訳が一番面白いと思う。漢詩の部分などは意訳…

宵山万華鏡/森見登美彦

祇園祭の宵山を舞台にした連作的なファンタジー短編集で、登場人物や設定が少しずつ重なっている。最初の一篇は、お調子者の姉(小4)と心配性の妹(小3)が宵山にまぎれ込んではぐれ、妹が赤い浴衣の可愛らしい子供たちに連れ去れそうになるというホラー…

ちんぷんかん/畠中恵

大店長崎屋の病弱な若旦那と愉快な妖(あやかし)たちの活躍が楽しい時代ファンタジー「しゃばけシリーズ」の五冊目である。相変わらず一太郎は病弱で、火事の煙に巻かれて三途の川の淵まで出かけたりしている(笑)。庶兄の縁談や、幼なじみで、菓子屋の跡…

プリンセス・トヨトミ/万城目学

三権から独立する検査機関・会計検査院で「鬼の松平」の異名を取る凄腕検査官が大阪府に調査に乗り込む。松平はキャリア試験をトップで通過した傑物で、些細な不正もゆるがせにしない厳格な検査官だが、濃い風貌を供えた渋い男でありながらのべつアイスクリ…

こわれた腕環 ゲド戦記2/アーシュラ・K.ル=グウィン 

大魔法使いゲドの成長と苦悩と活躍を描くゲド戦記シリーズ第二巻である。カルガド帝国の王室は「名なき者たち(闇の者たち)」を信仰しており、墓所の大巫女が亡くなると、生まれ変わりと思しき幼児を跡継ぎに据え、次代の大巫女に育てる。アルハとして育っ…

影との戦い ゲド戦記1/アーシュラ・K.ル=グウィン

岩波少年文庫に入ったのを機についにゲド戦記シリーズを読み始めた。多島海(アーキペラゴ)地域の山羊飼いの家に生まれたハイタカ少年が大魔法使いになるまでを描いた成長ファンタジーという感じだろうか。ハイタカは素質を見込まれて大魔法使いに預けられ…

海底二万里/ジュール・ヴェルヌ

言わずと知れた空想科学小説の古典である。ストーリーについては大きく触れる必要はないと思うが、十九世紀の大洋上で何者かとの衝突事故が頻発し、調査のために軍艦に乗り込んだ博物学者アロナックス教授が海底の驚異を語る記録という体裁を取っている。今…

ぼくは夜に旅をする/キャサリン・マーシュ

黄泉の国をさまようオルフェウス神話を題材にした10代向けのミステリアスファンタジーである。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ジュブナイル賞受賞。考古学者の父親の勤務先である大学に暮らす14歳のジャックは、母親を早くに亡くした、寡黙で内向的な少…

MM9/山本弘

当たり前のように怪獣が現れ、対処の失敗によっては甚大な災害を引き起こす日本を舞台に、気特対(気象庁得意生物対策部)の活躍を描くSFであり、熱い公務員小説でもある(笑)。MMとはモンスター・マグニニュードの略で、体重測から被害の大きさを予測…

オカメインコに雨坊主/芦原すなお

50代と思しき画家が、鉄道を乗り間違えてたどり着いた不思議な田舎町に住み着き、そこでの日々をユーモラスに綴る連作掌編ファンタジー。時代設定がよく分からないが「このあいだの戦争」というような描写もあることから、戦後数年くらいということになっ…

へんないきもの三千里/早川いくを

奇妙な形態や生体を持つ生物を面白おかしく描いた「へんないきもの」の著者による生き物ファンタジー。いわゆるバイオファンタジーのような遺伝子工学的なものではなく、へんないきものたちが擬人化されていて可笑しい。 ビジネスエリートの両親(ただし仮面…

青空のむこう/アレックス・シアラー

交通事故で死者の世界へ来てしまったハリー(10歳前後と思しき少年)は、姉のエギーと口げんかをした直後に死んでしまったことで、姉に悲惨な思いをさせているに違いないことを悔い、何とか仲直りしたいと考えている。そして、母を捜して150年間死者の…

東京ナイトメア 薬師寺涼子の怪奇事件簿/田中芳樹

頭脳明晰・傲慢不遜・才色兼備・傍若無人で格闘術は飛び抜けており、実家は警備会社を核とする巨大コンツェルンの大富豪というスーパー女王様キャラのキャリア警官薬師寺涼子警視が怪奇な謎を(無理矢理に)解決してしまう痛快シリーズである。上は警視総監…

銀河英雄伝説(全10巻)/田中芳樹 

初版が四半世紀前になると言うスペースオペラの名作シリーズである。田中作品では以前に「七都市物語」を読んだことがあり、敵対する地域同士の政治的な関係の緻密さと重厚な戦闘描写に感心したが、同じ魅力が本作にも遺憾なく発揮されている。これはもう、…

四畳半神話大系/森見登美彦

森見登美彦作品らしく、相変わらず自意識過剰でバンカラでアナクロで屁理屈こきな京大生が身勝手な独白を延々展開しているドタバタファンタジーである。 全体は四部に別れていて、同じ主人公の人生が四パターン描かれている。『映画サークル「みそぎ』『自虐…

銀河英雄伝/田中芳樹

初版が四半世紀前になると言うスペースオペラの名作シリーズである。田中作品では以前に「七都市物語」を読んだことがあり、敵対する地域同士の政治的な関係の緻密さと重厚な戦闘描写に感心したものだが、同じ魅力が本作にも発揮されている。これはもう、馬…

黄金の王白銀の王/沢村凛

著者の大作「瞳の中の大河」はバーチャルな西洋中世的な世界を舞台にした戦史ファンタジーで、本作も同様の作品だが、舞台は東洋中世的世界である。人名・地名の付け方は、当初中国的ものかと思ったが、むしろ古代日本的なものが感じられ、独特の世界観だ。 …

カレンダー・ボーイ/小路幸也 

小中を共にした同級生二人が同じ大学の教授と事務局長になっており、この二人が、48才の意識を保ったまま小学5年生の自分に戻るタイムスリップを日ごとに繰り返す。そして、3億円事件にからむ同級生の悲劇を繰り返させるまいと奮闘するのである。 大学教授…

鴨川ホルモー/万城目学

京都大学の新入生たちが妖しげなサークル京大青龍会にスカウトされ、主人公の安倍は、タダメシのためのみに新歓コンパに出かけていくが、高貴な鼻を持つ女性に一目惚れし、サークルに入ることを決意。そして妙ちきりんなドタバタの幕が開く。京大青龍会は式…

西遊記/平岩弓枝

平岩弓枝が中国奇書を翻案するとは思わなかったが、「道長の冒険」なども書いているので、アジアンファンタジーも得意なのかもしれない。 大筋は底本通りだが、石猿の誕生などはすっ飛ばし、玄奘の登場あたりから書き始めている。悟空の造形もわりあい子供っ…

有頂天家族/森見登美彦

下鴨神社の糺の森に救う狸一家の、心温まる家族愛と痛快な活劇の物語。京都を舞台にひねくれ純情の主人公のドタバタを描くのがいつもの森見作品だが、人間ではないものを主人公にすることでベタベタな部分を書いてみたかったというのが作者の弁である。京都…

シャングリ・ラ/池上永一 

沖縄の風土や伝承や土俗をモチーフに、ユーモラスで切ないファンタジーを書いてきた池上永一だが、今回は真っ向からの大作SFである。近未来の東京は、ヒートアイランドや温暖化によって熱帯と化しており、政府は空へ伸びる人口都市アトラスを建設するが、入…

太陽の塔/森見登美彦

第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。先に読んでしまった「夜は短し歩けよ乙女」同様、自意識過剰で、自我が肥大し、むさ苦しく、暑苦しく、鬱陶しく、女性にもてない昔気質な京大生たちが織りなす馬鹿馬鹿しい青春徘徊小説だ。「夜は短し…」同様にや…

みずうみ/いしいしんじ

いしい作品と言えば「麦ふみクーツェ」「プラネタリウムのふたご」のような作品の、悲惨で滑稽でハートウォーミングな作風が魅力だったが、今作はかなり違っている。新機軸を開こうとしたのかもしれないがどうもとっつきにくい。発表誌が「文藝」ということ…