本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

産霊山秘録/半村良

ハルキ文庫から出ていたものを二十数年ぶりに再読。雰囲気に古くささは感じるものの、やはり飛び切り奇想天外で面白かった。

古代、天皇より上に位置し、特異な能力を誇ったヒ一族の末裔は、朝廷と世の中の平和を希求する勅忍となっており、乱世を収めるのは信長だと見切った一族は、影になり日向になり手を貸す。

四面楚歌の状態での信長に日本統一の機運が見えたのもそれ故であり、明智光秀藤堂高虎山内一豊もヒなのだった。それに目を付けたのが家康で、かくて江戸幕府が開かれる。

寺社などの日本の聖地は大体がヒが拠り所とする産霊山(むすびのやま)であり、その中心である芯の山は、人々の願いを聞き届け、明日に平和をもたらすとされている。

その芯の山こそは権力の維持装置でもあり、かくて幕末、東京大空襲、戦後にまで、権力者によるヒの争奪が持ち越されることになるのだった。このあたり、権力に翻弄される庶民の悲喜を描いてきた、いかにも半村良らしいモチーフだと思う。

家族制度を持たないヒは、里の女に子を産ませ、男であればさらってきてヒとして育てるが、女は異形に生まれついてしまう。それがオシラサマで、目も鼻もなく、日の光にも衣服にも弱く、地の底で裸で暮らしているのだが、ヒが理想を掲げながら女を使い捨てるあたりの抗議は、高邁な目的に陶酔していた学生運動の比喩でもあったろうか。

いかにも伝奇というにふさわしい大作だが、SFとして書かれているので、随所に念動力だのテレポートテーションだのESPだの超能力だのの用語が登場しているのがやや不満。ほとんどの時代が江戸までなのだから、時代小説的な雰囲気で書いて欲しかったと思う。

こういう作風、思えば荒山徹が見事に受け継いでいると思うし、荒山の「魔岩伝説」の権力維持装置の着想もここらあたりにあったのかもしれない。

ハルキ文庫は、角川書店を離れた角川春樹が始めたものだろう。さすがに人気作家との縁が深いようで、過去の名作がラインナップされているようだが、気配りが行き届かず誤字脱字が非常に目に付いた。