本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

薄紅天女/荻原規子

日本神話や古代史をモチーフに健気な少年少女を描くファンタジーシリーズ、勾玉三部作(「空色勾玉」「白鳥異伝」)の掉尾。

平安時代、坂東の竹芝を治める長の息子及びその甥で、同年の藤太(とうた)と阿高(あたか)は、精神的に強く結びついたおり、二連と呼ばれ近所の娘たちのあこがれでもある。阿高の父親は、蝦夷征伐に駆り出された長の息子で、蝦夷の巫女との間に阿高をもうけるが、敗戦の濡れ衣を着せられ処刑されていた。蝦夷の巫女は勾玉を伝える血統であり、災厄に見舞われる都のためにも、帝はその力を必要としていたが、阿高の母はこれを拒んだがために、帝の一族を狙う悪霊が跳梁跋扈しているという設定である。

巫女姫の力を得ようと、蝦夷の一族が阿高を訪れ、連れ去るが、この時に阿高は己の出生を知り、なかばやけになっていた。阿高の中には母の巫女姫が潜み、時折藤太の前にだけ現れて予言を為している。「白鳥異伝」でヤマトタケルに妄執をみせた母に似ているような気もするが、あんなに気味の悪い母ではない(笑)。

藤太は、帝のために阿高を探しに来た坂上田村麻呂の助力を得て、阿高を救出。すべてのトラブルが自分に収斂しているらしいことに、阿高は、都へ行って真相を明らかにすることを決意する。

一方、帝の娘で跳ねっ返りの苑上(そのえ)が登場し、様々な行く立てから阿高らと行を共にすることになる。健気な少年少女の活躍という、三部作共通のパターンだ。阿高も苑上も、自分自身にはぐれ者的なものを感じており、その辺でも相寄る魂なのだろう。

阿高は不思議な能力など必要とせず、生まれ育った坂東へ帰りたいと思っているし、藤太は、超常的な力など持たない普通の阿高に戻してやりたいと願っている。このあたりの絆が切なく、熱い。

悪霊の跳梁にどう収まりを付けるのか。悪霊の正体と、跳梁の理由と、物語は意外な驚きを孕みつつ佳境へ向かう。悪霊の悲しみなども描かれ、情感のある終盤である。

三部作の全てに共通するが、主人公の少年少女たちは、育ちと違う出生の秘密を持っていたり、生まれながらに重い使命を担わされていたりする。本作の主人公は青年になりかかっているが、前の二作ではもっと幼かったりすることもあり、やや過酷かなぁと思う。それ故に感動的な物語になるのだろうが・・・。

この物語の背景として、降臨した神の一族である光(かぐ)と、地生えの一族である闇(くら)の葛藤があるが、単純な二元論では割り切れず、かなり複雑な世界観になっている。一応児童書の分類になっているが、ある程度読者の年齢を選ぶのではないだろうか。

ともあれ、健気な少年少女(特に少女)の活躍に共感を覚えるシリーズだった。