本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

アメリカ第二次南北戦争/佐藤賢一

西洋史を舞台に、戦国時代小説的な歴史物を発表してきた著者による近未来ポリティカルフィクション。

2013年、アメリカ合衆国で南北に別れた内乱が勃発する。テキサス州ダラスで女性大統領が暗殺され、副大統領から昇格したアフリカ系アメリカ人ムーアが強権的な捜査と銃規制を行ったことに南西諸州連合が反発し、連邦を離脱したことによるものだ。

フランスの仲裁で現在は停戦中の北米を旅するジャーナリスト・森山悟が、取材の過程で見えてくるアメリカという超大国の実相に迫っていく、なかなかスペクタクルな近未来政治小説である。

がしかし、そこは佐藤賢一であるから、ねじくれたユーモアや皮肉や無軌道さが随所にあふれている。共に旅するのは、合衆国(北部)側の義勇兵である結城健人、やはり女性義勇兵のヴェロニカなどで、淫乱でワガママなコギャルのヴェロニカに振り回される森山が笑える。

そして徐々に明らかになってくる内乱の真相がスリリングで、何とも壮大で悲愴でコミカルな小説である。アレクサンドル・デュマ三代やカポネや女信長など、昨今はさまざな国や時代に取り組んでいる佐藤賢一ならではと言えようか。

初期に書いていた物は中世ヨーロッパを舞台にした時代小説だったが、現代から見れば想像するしかない時代の社会や政治や戦争に翻弄される人間を描いていたのだから、これを近未来の北米に移してみたということだろう。実に多彩な技で、また次回作が楽しみになるいうものだ。