本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

アラビアの夜の種族/古川日出男

古川日出男のSF大賞受賞作。二段組み569ページ、へとへとになる大冊だ(笑)。

物語は三重になっている複雑な構造で、冒頭、この本はエジプトの伝説の英訳版をテキストに著者が和訳したものであるという前書きがあるが、恐らくここからが創作なんだろう。

ナポレオンの侵略にさらされているカイロを舞台に、読む者を惑乱させる幻の奇書「災厄(わざわい)の書」を愛書家のナポレオンに読ませて撤退させてしまおうという陰謀があり、現在進行形の陰謀と「災厄の書」の内容が交互に語られる。

マムルークと呼ばれる、異邦から買われてきた軍人奴隷が支配するエジプト社会が興味深く、また「災厄の書」の内容も奇想天外なファンタジーで、異様な地下都市、魔神と魔術師の戦い、権謀術数、貴種流離、成長譚(ちょっとドラゴンボールみたいだ)、復讐譚などがてんこ盛り。

古語をルビに使った衒学的でやや饒舌な語り口は好き嫌いがあるかもしれない。分厚いのでなかなかページが進まないが、半分を過ぎたくらいから俄然面白くなった。